スポーツチャレンジ賞
野口智博は1966年、島根県松江市に生まれた。
子供の頃は、スポーツよりもピアノや習字などの習い事の得意な少年だった。しかし小学二年生の春先、ある事件がきっかけで彼は水泳を習い始めることになる。
「友達と川に向かって石を投げて遊んでいたら、過って土手から水中に落ちてしまったんです」
野口はカナヅチだった。
運よく、その場を通りかかった年配の女性が野口少年を水から引っ張り上げてくれたが、もし彼女が現れなければ、大変な事態になっていた。
全身ずぶぬれ、緑色の藻だらけで帰宅すると、野口は事の一部始終を母親に報告した。さぞかし叱られるに違いない、野口は厳しい説教を覚悟していたが、予想に反し彼女は声を荒げなかった。
「その代わり、30分後には水泳教室に通うことが決まっていました」
あなたがちゃんと泳げるようになるまで習い事は一切中断します、それが母親の決定だった。
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