セーリング・チャレンジカップ IN 浜名湖
平成28年・第24回 レースレポート(総括)
全国34クラブから集まった109隻・119人のジュニア/ユース世代が熱戦を展開


公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)では、3月24日(木)から27日(日)の4日間にわたり、静岡県立三ヶ日青年の家(浜松市)において「第24回YMFSセーリング・チャレンジカップIN 浜名湖」を開催しました。今大会は、全国34クラブから集まった109隻・119人のジュニア/ユース選手が出場しました。
「YMFSセーリング・チャレンジカップIN浜名湖」は小学生から高校生までのジュニア/ユース世代を対象にしたセーリング大会で、毎年、春休みの3月下旬に浜名湖で開催されています。本大会の特徴は、単に順位を競うチャンピオンシップとしてのレガッタではなく、国内トップレベルの実績を持つコーチ陣を招聘し、選手に直接指導を行う「学べるレガッタ」であること。今回も海上での指導や勉強会を開いたほか、大会直前の23・24日には事前クリニックを実施するなど実践的なコーチングが行われました。
期間 | 2016年3月24〜27日 |
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会場 | 静岡県立三ヶ日青年の家(静岡県浜松市) |
共同主催 | 公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団、NPO法人静岡県セーリング連盟 |
参加艇 | OP級:初級21艇/上級36艇、ミニホッパー級:11艇、レーザー4.7級:25艇、レーザーラジアル級6艇、FJ級:5艇、420級:5艇 |
新たなスタンダードに則った競技クラス
これまで国内のユース世代は、二人乗りクラスはインターハイ種目のFJ級、一人乗りクラスは国体種目のシーホッパー級SRという、極めてドメスティックなクラスが選択されてきました(FJ級は国際クラスではあるものの、日本での普及が大半を占める)。日本のセーリング環境にフィットしたこれらのクラスは、高校から競技を始めることの多かった日本のユースセーラーの技術向上に大きく貢献し、これらのクラスで育った選手がオリンピックでメダルを獲得するに至りました(1996年アトランタ五輪銀メダルの重由美子、2004年アテネ五輪銅メダルの関一人の両選手はともに高校時代FJ級で技術を磨いた)。
しかし、小学生などジュニア世代から競技を始める選手が増え、ジュニアやユース世代においても世界大会を目指す傾向が強くなり、国内のユース種目もグローバルスタンダードに併せるべきだとの声も目立つようになりました。こうした意見を受け、昨年のインターハイから420級が採用され、国体の一人乗り種目はレーザーラジアル級に変更されました。この2クラスは、ユース向け艇種としては世界的に最も普及したクラスで、今後、国内においてもこの2クラスを軸にユース世代の強化が行われていくことになりました。
「YMFSセーリング・チャレンジカップIN浜名湖」では、そうしたトレンドをいち早く先取りし、前年大会から420級の採用に踏み切り、今大会からはレーザーラジアル級も加えた競技クラスとなりました。その概要は、小学生から中学生のジュニア世代の国際スタンダードともいえるOP級、そのOP級では物足りなくなった選手や体格の大きなジュニア選手を対象としたレーザー4.7級、高校生や女子セーラーの一人乗り艇種として普及しているレーザーラジアル級、国内クラスではあるものの優れた設計コンセプトで根強い人気のミニホッパー級を加えた一人乗り艇種4種目。二人乗り種目としては先に挙げた420級と、しばらくインターハイ種目として残るFJ級の2クラス。さらに、対象年齢の広いOP級は選手のレベルによって初級と上級に分け(自己申告)、全6艇種/7種目の大会となりました。
強風から微風まで、バリエーションに富んだ風に恵まれた
冬の名残のような冷たい北西の強風と、春を感じさせる南西の軽風が日替わりで吹くことの多い春先の浜名湖ですが、今年は大会初日に10m/s近い北西の風が吹き荒れ、2日目は南西の2〜5m/s、最終日も南寄りの3〜4m/sとなり、さまざまな風域のコンディションでレースが行われ、体重が重い選手も軽い選手も、強風が得意な選手も弱い風が得意な選手も、全ての選手にとってチャンスのあるレガッタとなりました。
OP級
今大会、最も多くのエントリーのあったOP級は、上級クラス:36艇、初級クラス21艇に分かれてレースが行われました。このクラスは例年女子選手の活躍が目立ち、2012年から3大会連続で女子選手が優勝、さらに昨年大会では1〜4位まですべて女子選手となるなど女子パワーが炸裂するクラスでしたが、今年は男子が奮起して上級/初級ともに男子選手が優勝を勝ち取りました。最終レースまで上位5選手が激しく優勝を争った上級クラスを制した服部陸太選手(江の島ヨットクラブジュニア)は、1月に同じ海面で行われたOP級の選考レースで今年の世界選手権代表選手に選ばれた技術力の高い選手。「昨年、ポーランドで行われた世界選手権に初めて出場しましたが、大会の雰囲気に呑まれてしまって満足な成績がとれなかったので、今年はしっかりと緊張感をもってのぞみたいと思います」(服部選手)。一方、小学校低学年や、セーリングを始めて日が浅い選手を対象にした初級クラスでは、昨春からヨットに乗り始めて1年足らずの遠藤貫太郎選手が2位以下に大差をつけての優勝。「同じ日に同じクラブでヨットを始めた鈴木風雅くんも頑張っていたので、ボクも頑張れました。小3から始めた器械体操も大好きですが、ヨットも大好き。器械体操で身につけた動きはヨットでも役に立っています」(遠藤選手)。
レーザー4.7級
昨年から採用されたレーザー4.7級は、今年の世界選手権代表選考対象レガッタに指定されたこともあり(本レガッタを含む全5レガッタでのポイント制)、世界大会を目指すレベルの高い選手を含む全25艇がエントリーしました。最終日を前にトップに立ったのは江の島ヨットクラブジュニアの桐井航汰選手。それを1点差で追うのが地元の静岡県セーリング連盟浜名湖ジュニアクラブの三浦凪砂選手。優勝のプレッシャーからか桐井選手は最終レースで17位と低迷。一方で、伸び伸びと走った三浦選手はマーク毎に順位を上げて最終レースで見事トップフィニッシュ。初優勝を決めました。「ずっとOP級に乗っていて、レーザー4.7級に本格的に取り組んだのは今年に入ってから。これまでの選考レースには出場していないので、世界選手権代表になるのは厳しいと思いますが、最後に行われるJOCジュニアで勝つことができれば可能性はゼロではないみたいなので、最後まであきらめずに頑張りたい」(三浦選手)。
レーザーラジアル級
今大会から採用されたレーザーラジアル級には、高校ヨット部に所属しつつ国体を目指す選手を中心に6艇がエントリー。エントリー数は少ないものの、レガッタ中に佐々木・榮樂両コーチの指導により、みるみる成長していく姿が印象的でした。そんなレーザーラジアル級の初代チャンピオンに輝いたのは、創部2年目の三重県立津工業高校ヨット部の上山竜誠選手。「体験入部をして面白そうだと思って入部しました。最初は二人乗りのクルーをしたんですが、ヘルムを取りたいと思って先生の薦めでレーザーラジアル級に転向しました」(上山選手)。ヨットを始めて半年足らずで出場した国体では30位。今年は10位以内を目指したいと初々しい抱負を語ってくれました。
ミニホッパー級
本大会の前身であるジュニアチャンピオンレガッタの第1回大会から採用され続けている唯一のクラスとなったミニホッパー級。日本のセーリング環境に合わせて設計された国内クラスながら、世界的に見ても代替できるクラスが存在しないこともあり、製造が中止された後も、古い艇体を大切に使いながら使用しているクラブも少なくない人気のクラスです。山中湖中学校ヨット部など、公立中学のヨット部を中心に11艇がエントリーしました。優勝したのは山中湖中学校ヨット部の高村彪太朗選手。山中湖中学校ヨット部の優勝は第5回大会以来11年ぶり5回目。「小学校の時にヨット教室に参加して、山中湖中学に入学したらヨット部に入ろうと決めていました。初めて出場した去年は3位だったので、優勝できてとても嬉しい」(高村選手)。
420級
今年は、高校生を対象にした大会の日程が重なったこともあり、インターハイ種目である二人乗りの420級、FJ級ともに昨年に比べてエントリー数は減少しました。昨年からインターハイの種目となった420級には、三重県立津工業高校ヨット部から3艇、地元静岡の静岡県立相良高校ヨット部から2艇がエントリーしましたが、上位3位までを津工業高校ヨット部が独占する形となりました。津工業高校は、平成33年に開催が予定されている三重国体に向けて、開催県である三重県のヨット競技強化していこうと昨年創部されたばかりの新しいヨット部で、部員は男子ばかりの9人。鳥羽商船高専出身の高木先生と伊藤先生の指導の下、メキメキと実力を蓄えつつある注目の新勢力です。優勝したのは8レース中1位を7回とった谷口龍帆/山本虎太朗組。二人とも津工業高校ヨット部の一期生で、高校に入ってからヨット競技を始めた同級生コンビ。「名前に『帆』という字があるので、親がヨットをやっていたと思われるんですが、全くの偶然です」(谷口選手)。
FJ級
FJ級の優勝も、全8レース中7回トップという圧勝ぶりで熱海高校ヨット部の加藤文哉/伊井健太郎組が勝ち取りました。熱海高校ヨット部は静岡県内最古の高校ヨット部で、かつては部員不足で活動が危ぶまれた時期もありましたが、新しい艇庫が建設された近年は部員も増え、競技レベルもぐんぐん向上している古豪ヨット部です。「中学時代は野球部だったんですが、グラウンドから見える海に気持ちよさそうに熱海高校ヨット部のヨットが走っているのを見て、熱海高校に進学してヨット部に入部しようと決めました。今年の目標はインターハイ出場です」(加藤選手)。
参加することで成長できるレガッタ
「YMFSセーリング・チャレンジカップIN浜名湖」の特徴は、レガッタの順位よりも、選手が心身ともに成長することに主眼を置いた「学べるレガッタ」を目指していること。
今大会も昨年に引き続き、元オリンピックセーラーでロンドン五輪コーチを務めた佐々木共之さん、鹿屋体育大学助教で同大ヨット部監督の榮樂洋光さんがコーチとして招かれました。今年は大会の前(3月23・24日)に、両コーチに加えノースセール・ジャパンの白石潤一郎さん(全日本スナイプ選手権優勝)もまじえた事前レクチャーが行われ、有志の選手たちとともに海上練習が行われました。選手たちは、そこで見つかった自分なりの課題を、次の日から始まるレガッタでいかに克服していくかという視点で大会に臨むことになりました。
大会が始まってからは、夕食の前と後に、艇種別の講習会が行われ、ほとんどの選手が参加しました。特に、レーザーラジアル級とレーザー4.7級を対象にした『佐々木塾』は大いに盛り上がり、選手たちの要望もあり消灯直前の22時まで白熱した議論が戦わされました。
教室で行われる講義だけではなく、海上においても、両コーチたちは気づいた点を逐一選手たちに伝え、その場で指導を行いました。中には、レースを重ねるごとに成長が見られる選手もいて、ジュニア/ユース世代の吸収力の高さを感じさせます。
昼食を終え、ハーバーで待機している間も、両コーチたちは選手を集め、ストラテジーやボートハンドリングの臨時講習会が次々と開かれました。今大会で特筆すべきは、ジャッジ(審判)たちによるルールのレクチャーです。大会最終日、無風でハーバー待機をしている間、解釈の難しいルールの42条(帆走方法)について、どういう動きをするとペナルティとなるのか、どういう動きをすればセーフなのかという具体的なジャッジの基準を、レーザー4.7級の艇体を使いながらわかりやすく解説されました。選手たちは、ジャッジのスタッフとコミュニケーションを取ることで、ルール違反を少なくするという方法に出会い、積極的にルールを理解する大切さを学んだようです。
確立されつつあるスタンダード
近年、種目が頻繁に変更されてきた日本のジュニア/ユース世代のセーリング競技ですが、ようやく世界的なスタンダードと同じ形に近づきつつあり、今大会から加わったレーザーラジアル級を含めた今回の競技クラスが、国内におけるスタンダードとして今後長らく続きそうな気配です。
安易な艇種変更は、選手のみならず、大会主催者にとっても大きな経済的負担を伴うものですが、ようやくスタンダードとして信頼に足る形となったことで、選手も、それを支援するクラブも、腰を据えて強化に取り組む環境が整ったといえそうです。 今年で第24回を数える本大会は、国内ではインターハイに次ぐ歴史あるジュニア/ユース世代のレガッタです。大会は継続することで選手たちのレベルの推移や、傾向などをはかることができ、次なる強化への指針を見出すことに繋がります。来年、四半世紀の歴史を紡ぐことになる本大会が、今後も日本のジュニア/ユース世代の飛躍を支え続けるレガッタであることを願うばかりです。
大会の様子
上位成績
OP級 初級(参加21艇)
総合1位 | 遠藤貫太郎 (静岡県セーリング連盟浜名湖ジュニアクラブ) |
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総合2位 | 富永遼希 (海陽海洋クラブ) |
総合3位 | 嶋倉侑司 (真野浜セーリングクラブ) |
女子1位 | 織田真帆 (千葉市立磯辺中学校ヨット部) |
OP級 上級(参加36艇)
総合1位 | 服部陸太 (江の島ヨットクラブジュニア) |
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総合2位 | 佐々木マールトン星和 (B&G兵庫ジュニア海洋クラブ) |
総合3位 | 前田海陽 (広島県セーリング連盟) |
総合4位 | 安永昂生 (B&G福岡ジュニアヨット海洋クラブ) |
総合5位 | 嶋倉照晃 (真野浜セーリングクラブ) |
総合6位 | 鈴木亮太朗 (静岡県セーリング連盟浜名湖ジュニアクラブ) |
女子1位 | 小林奏 (宮津ジュニアヨットクラブ) |
ミニホッパー級(参加11艇)
総合1位 | 高村彪太朗 (山中湖中学校ヨット部) |
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レーザーラジアル級(参加6艇)
総合1位 | 上山竜誠 (三重県立津工業高等学校) |
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レーザー4.7級(参加25艇)
総合1位 | 三浦凪砂 (静岡県セーリング連盟浜名湖ジュニアクラブ) |
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総合2位 | 桐井航汰 (江の島ヨットクラブジュニア) |
総合3位 | 廣瀬翔大 (YMFSジュニアヨットスクール葉山) |
女子1位 | 三浦凪砂 (静岡県セーリング連盟浜名湖ジュニアクラブ) |
FJ級(参加5艇)
総合1位 | 加藤文哉/伊井健太郎 (静岡県立熱海高等学校) |
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420級(参加5艇)
総合1位 | 谷口龍帆/山本虎太朗 (三重県立津工業高等学校) |
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※写真は各クラスの総合優勝と女子優勝者
第24回「セーリング・チャレンジカップ IN 浜名湖」は、
スポーツ振興くじ助成金を受けて実施しています。
