調査研究

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2017(平成29)年度

障害者スポーツの振興と強化に関する調査研究
-テレビCF、大学の先進的取り組み、地域現場の実態に注目して-

地域現場における実態調査について

背景・狙い

障害者スポーツの国内全体環境を捉えることに加え、地域実態を明らかにすることで、障害者スポーツを取巻く環境課題をマクロ・ミクロ両方の視点で捉え、より立体的に把握する。

調査対象

静岡県内で実施された『みんなでスポーツ教室』と『第18回わかふじスポーツ大会』にて調査。

みんなでスポーツ教室
みんなでスポーツ教室みんなでスポーツ教室みんなでスポーツ教室
  • みんなでスポーツ教室

    みんなでスポーツ教室の受講者を通して見える普段のスポーツ実施状況は、主に男性の10〜20代の特別支援学校生徒や障害者施設・作業所利用者が、週あたり1〜3回、1回あたり1時間程度、健康志向で活動しているというものであったが、現状の活動状況に満足しているわけではなく、機会の拡大や異なる種目を希望していることも示された。

  • みんなでスポーツ教室指導者の男女比率はほぼ同じであるが、初級障がい者スポーツ指導員資格や種目別審判資格をもつ50〜60代のスポーツ指導者が、普及・振興を目的に活動している実態が窺えた。スポーツ指導を始めたきっかけについては、健常者のスポーツ指導経験が多いものの、家族や知人など身近な存在が障害者である(となった)ことから障害者スポーツと関わりを始めたスポーツ場面で障害者との交流があったという「身近な存在」が影響していた。したがって障害者スポーツの指導者は一部の特別な存在、活動に留まっている現状が示唆された。そのため、障害者のスポーツ活動が日常生活化するためには、社会レベルでの施策が必要であると考えられる。

  • 東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定後の変化については、受講者・指導員ともにテレビを通しての視聴に対する意識が高いことが示されたが、直接観戦については受講者の意識は低く、静岡県内で開催される競技観戦については指導者・受講者とも低調であった。このことから、パラリンピックという競技性の高いスポーツと身近なスポーツ活動は関連しない存在であると捉えられていることが推察された。また、東京2020パラリンピック開催決定後の環境変化については、受講者、指導者ともに障害者スポーツに関する話題をメディアで見る機会が増えたこと、障害のある方でスポーツをする人が増えた、障がい者スポーツ指導員資格を新規取得する人が増えたことを変化として指摘しているが、特に何も変わらないとする回答が受講者で高かった。このことから、変化はごく一部であり、障害のある人たちが実感できる変化をもたらすまでには至っていないことが示唆された。

わかふじスポーツ大会
わかふじスポーツ大会わかふじスポーツ大会わかふじスポーツ大会
  • わかふじスポーツ大会

    わかふじスポーツ大会の参加者は、10〜20代の知的障害のある男性が多く、スポーツを始めたきっかけは学校の授業やクラブ活動であった。障害者スポーツ選手としての目標は、わかふじスポーツ大会出場が最も多く、参加者の意識はパラリンピックを頂点とする競技スポーツのピラミッド構造を志向するのではなく、わかふじスポーツ大会に出場するという、身近で具体的な目標を持っていることが示された。また、競技引退後の障害者スポーツとの関わり方については、愛好者としてが最も多く、ボランティアや指導者としてなんらかの形でスポーツと関わりを持つことを希望するという回答が多いものの、かかわりたくないが1割あることも特徴的であった。

  • スポーツ環境の現状として、まず、ハード面では障害者専用もしくは優先施設が必要という意見が多かった。次に、ソフト面での障壁は人的資源不足(指導者、支援者、保護者への負担)、物的資源不足、費用負担、アクセスの悪さ(会場、情報とも)であり、健常者への理解・啓発、交流等の必要性を訴えるもの、在住する地域でのスポーツ大会や継続してスポーツをする環境を整えることを強く望む意見があげられていた。


担当者のコメント
齊藤 まゆみ氏

齊藤 まゆみ
(筑波大学体育系准教授/当財団障害者スポーツプロジェクト メンバー)

本調査からは、静岡県内で展開されている「みんなでスポーツ教室」「わかふじ大会」の参加者を通して現状と課題が見えてきました。身近な場所で行えるスポーツ環境をいかにつくっていくか、今後その拠点形成がどのようになされていくかに着目していきたいと思います。また、東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定後は活動参加者、指導者ともにテレビを通しての観戦意欲は高まっているものの、直接観戦についての意欲は高くないことが示されています。また、障害者スポーツを取り巻く身近な環境もあまり変化がないという回答がとくに受講者では多く見られたことから、競技性の高いスポーツと身近なスポーツ活動がどのようなつながりをもてばよいかを地域特性にあわせて考えていきたいと思います。


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