スポーツチャレンジ賞




アテネで感じた世界との差
アテネでの最終日、残っているのは水泳と陸上競技だけだった。午前中、最後の競技者の肉体を整えたところで、門田の役目は終了する。モンちゃん、おつかれさま、今日はもう休んでいいよ。
門田はよくトレーナールームを活用してくれていた水泳選手たちの試合を見に行くことにした。機会があればサブプールで泳げるかもしれないと、水泳パンツも持参した。
「サブプールの周りには、それぞれの国に割り当てられたスペースがあって、マッサージ用のベッドもおかれていて。ドイツも、アメリカも、ブラジルも、グレートブリテンも、強豪と言われる国はどこも、スタッフが揃いのウエアを着て、これから試合に向かう選手、あるいはレースを終えた選手の身体を整えてあげていたんです」
9月のギリシアの日差しの中、門田は海水パンツ一枚を身につけた姿で、なにか釈然としない気持ちでその光景を眺めていた。彼を見つけた日本選手が、マッサージを依頼する。おれ、今日はオフなんだけどなあ、門田はそう笑いながら、ベッドに横たわった選手の身体にマッサージを始めた。
「向こうは揃いのウエアで、こっちは海パン一枚、銭湯の脱衣所みたいなわけです。さすがに思いましたよ。世界最高の国別対抗戦で、この差はないな、って」
あの体験がターニングポイントになった、と門田は断言する。

帰国後、門田は講演や講習に呼ばれるたび、トレーナー制度の設立を主張した。意外だったのは、トレーナーたちではなく、監督や指導者からアテネでの話を聞かせてくれというリクエストが多かったことだ。
本当にトレーナーって必要なのか?
ええ、本当に必要です。
門田は、かたや揃いのウエア、かたや海パン一枚姿の写真を聴衆に見せながら、行く先々で語り続けた。日本と外国との差はこれぐらいありますよ!集まった人々は彼の台詞に笑い声をあげ、同時により真剣に彼の言葉に耳を傾けてくれるようになった。
<次のページへ続く>
「スポーツチャレンジ賞」トップにもどる