スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

TAISEI IMAMURA × KOJI MATSUSHITA

両国のスポーツ文化にはあまりに違いがありすぎる

今村日本の卓球界、本当に目覚しい成長ぶりですよね。でも見方を変えれば、男女ともにこれだけレベルの高い選手がいるにもかかわらず、その日本という国の中に選手の受け皿になるプロリーグがないって、ちょっとおかしいですよね。あればわざわざ国外に出る必要もないし。日本という舞台で卓球をやっていて、選手が二十代後半に差し掛かってくると、他の国ならばまだまだやれる年齢なのに、引退を考えなきゃいけなかったりしますよね。現役を引退した後、卓球がらみの仕事で生きてゆける選手も少ない。10人に一人くらいかな。そこを考えると、いま浩二くんが尽力しているTリーグのスタートには、大きな期待を覚えるんです。

松下そういうことはプロリーグが当たり前に存在する環境にいる今村さんだから、余計に感じられるのかもしれませんね。

今村ヨーロッパでは15歳くらいでデビューして、35歳、40歳くらいまで怪我さえしなければ現役でプレーする選手はたくさんいますから。日本の選手にはそういう環境がない。

松下結局日本は、トップを目指してたりオリンピックや世界選手権を目指す、そこだけなんです。そこがなくなったらもう卓球をやれる場所がない。世界を目指せないのであればやっている意味がないから、卓球が好きではあるけれどやり続ける場もない、だったらやめるしかない、ということになるんです。これまで受け入れていてくれた側も、あなたは世界選手権やオリンピックを目指してやってきたわけだから、その目的がなくなったらもう所属はいらないよね、となるケースもあります。今のあなたを最後まで応援し続けます、という優しい会社はほとんどありません。でもドイツではナショナルチームをやめた選手でも卓球で食べていけるんです。もちろん自分の力の衰えとともに所属カテゴリーは1部から2部、3部と下がってゆくかもしれませんが、それでも卓球を続けながらなにがしか収入を得ることもできます。何よりも、卓球から離れなくて済む環境がある。

今村たしかにドイツでは1部リーグから10部リーグまでありますからね。数千万円稼いでいた選手が、リーグを下げれば例え収入が数百万円になっても卓球を続けられる。ドイツではもともとスポーツの根付きかたが違います。スポーツは学校とは無関係、あくまでも社会スポーツです。学校教育とスポーツをなぜ一緒にするんだ?って逆にドイツ人から聞かれたりします。

松下私自身、ドイツでのプレー経験からは色々と学びました。ドイツではまず楽しむためにスポーツが存在している。スポーツは人間にとって必要な文化的な活動であるし、そのスポーツを楽しむクラブという場所は一つのコミュニティで、そこに身を置くことは自分自身の人生を豊かにしていく、そんな文化があると思います。

今村確かにそうです。両国のスポーツ文化にはあまりに違いがありすぎて、日本でもドイツのようにプロリーグを真似して始めればいいじゃないか、と簡単にはいかないでしょう。もしドイツを真似するのであれば、学校教育としてのスポーツを解体するという、国家レベルの話になってしまうから。だから、日本は日本で最初は独自のリーグを作っていったほうがいいと思うね。今の状況を変えたくない人もいるだろうし、でも今のままじゃいけないし。

松下私は私なりに危機感を持っているんです。私がドイツに行ったのは20年前です。20年前と今とでは状況は全く変わりました。じゃあ、今から20年後、どういう状況になっているかもわからない。日本も今は強いかもしれないけど、また前みたいに弱くなる可能性だってある。だからこそしっかりとした仕組みを作ってゆかなければならない、と思うんです。

今村そうだね、あまりドイツはこうだから、とこだわらないで、試行錯誤の連続ののちに日本にあったプロリーグが生まれるといい。私個人としては、ドイツのプロリーグで日本人選手が活躍するよりも、日本にプロリーグができて、そこで活躍してくれたほうがいい。なんで日本のように卓球が盛んな国にまだプロリーグができないのか、そちらの方が不思議だから。ヨーロッパでは、ロシアにも、フランスにも、ポーランドにも、規模の大小はともかく各国にプロリーグはありますよ。

<次のページへ続く>



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