スポーツチャレンジ賞
現場の人間にしかわからない現実や感覚がある

萩原今年はオリンピック、パラリンピックの年ということで、やはり先生もワクワク、あるいはウズウズされているのではないですか?
藤原いえ、いえ!私はもう40年あまり、この世界に携わってきた人間です。ですので、やはり何か機会があるごとに、昔はこうやった、とか、ああだった、とか、口を開いてしまうことがあるんですね。現在障がい者スポーツ協会の事務局長をやっておられる方も、スポーツセンターの現館長も、私のかつての教え子にあたる人間です。そういう立場にある身ですので、私自身は、聞かれれば答えることはありますけれど、なるべく口は出さないようにしております。家に帰っても、家の者からも、控えておけ、と口うるさく言われておりますし。
萩原今パラの世界はこれまで厚生労働省管轄だったことが、文部科学省、さらにはスポーツ庁へと移って行こうとしています。これから様々なことが加速して進んで行くと思うのですが、先生に続く後輩の皆さんへ、何かアドバイスはありますでしょうか?
藤原そうですねえ…、管轄の省庁が変わってゆくと、それまでの関係もまた大きく変わってゆきますよ。私自身、教師時代から今に至るまで、厚生労働省であるからこうだった、というネガティブな経験はほぼ一度もありません。文部科学省に移る、ということには別に反対ではありませんよ、だって元々スポーツと文部科学省というのはかなり密な関係でやってきたわけですからね。ただ、新しい関係の中で、新しい省庁の新しい担当の方々が、現場にああだこうだと口出ししすぎることになりはしないか、というのが若干気がかりではあります。お役所の方も当然仕事ですから、そりゃあお金の使い道とか、使い方といったものには敏感でしょうし、果たさねばならない責任もあるでしょう。しかし、現場には現場の人間しかわからない現実や感覚というものがありますからね。
萩原確かにそうですね。新しい秩序が生まれると、新しい人間関係がまた始まる。その中でいかに両者が協力しあえるか、お互いのことを考えられるか、そこが大事なのかもしれませんね。
藤原私は現役時代、お役所からの頼まれごとにはなるべく積極的に協力してあげるようにしておりました。彼らもやはり人間ですし、感情もあります。何にもわかってない!とこちらが憤っていても、それこそ何の解決にもなりませんよ。でも、お互いに助け合う関係を築くことができれば、多少無理なお願いだって彼らも、仕方ないなあ、と頭をかきながらでも聞いてくれるんじゃないでしょうか。
『もちろん次の東京には大いに期待しています』
萩原人と人との関係性、本当に先生のおっしゃる通りだと思います。それでは最後に、この夏リオが終わると、その四年後はいよいよ東京です。2020年に期待されることってありますか?
藤原これは私の意見なのですが、今現在のパラの世界にとって大きな変化のきっかけになったのは、やはり1998年の長野が大きかったと思います。みなさんあまりそういうお話はされませんが、長野での大会開催を契機として、実に様々な組織ができたり、再編されたり、あるいはさらに大きな組織となって、一つの強いうねりになったと考えておるんです。一つの競技会というのは、それが続く一週間か二週間の間だけの話ではないですよね。そこに至るまでに、様々な準備があって、むしろその準備こそが一番大事な部分なのではないのかな、と思います。ですから、もちろん次の東京には大いに期待しています。長野であれだけのことが変わった、ならばもし東京で開催されたら、どれくらいのうねりや変化が起こるんだろうと。

萩原私もパラの世界に関わらせていただいている一人として、東京にはすごく大きな期待を寄せているんです。そしてもちろん、東京の後がどうなっていくのかについても、もっともっと考えていきたいですね。今日はわざわざ大阪からお越しくださり、本当にありがとうございました。大変勉強になる時間でした。
藤原いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。うまくお答えできたか、少々心配ですけれども、笑。
<了>
写真=近藤 篤 Photograph by Atsushi Kondo
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