スポーツチャレンジ賞

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INTERVIEW
NAOKI EGURO × TOMOKO KOJIMA

【対談】江黑直樹×小島智子

私の夢を選手たちが一緒に追いかけてくれた

負けて悔しくて、でもまたトライしたいっていう子たちだったから金を取ったんじゃないかな。社会に出ても、「あのときがんばれたんだから、ここでがんばれないわけがない」と思える。

私の夢を選手たちが一緒に追いかけてくれた

小島監督はそもそもなぜ女子のコーチになったんですか?

江黑今回のチームの女子キャプテンとずっと一緒にやっているんです。西日本大会で優勝して、全日本大会で優勝して、そこから世界大会へも一緒に行かせてもらって。その流れでコーチになり、監督になったという次第です。

小島私は女だらけの世界で育ってきたのですが、女子特有の雰囲気ってあるじゃないですか。その面で苦労されたことはありますか?

江黑「私には声を掛けてくれなかった」とか?(笑)

小島「あの子には優しい声を掛けていた」とか(笑)。

江黑初めの頃はありましたね。一緒にやってきた選手同士でも、「あの選手には指導するのに、私には言わない」とか。そんなことはないのに。

小島その感じ、わかります(笑)。

江黑あと、これは男子女子関係ないかもしれませんが、今でもあるのは、練習をやる子とやらない子の問題です。世界を目指している子と、ゴールボールを楽しみたいっていう子の間には、ギャップは必ず生まれてきて、「私たちはこんなにやっているのに、あの人はなんでやらないの?」ということになってしまいます。

小島そこはどうやって解決するのですか?

江黑最終的には、誰かと自分を比べる必要はない、と私は言います。彼女自身の数値を出して、前回の自分よりも良い数値が出ているのかいないのか、そこを見せます。「やらない」という感覚は価値観によって大きく違うので。

小島他に、チームを率いて行く上で、悩みはありましたか?

江黑選手たちをこの世界に引き込んだことが本当によかったのかどうかを、ロンドンパラリンピック前はすごく考えましたね。

小島そういう葛藤があったのですか。

江黑彼女たちはこの世界を求めて(国立福岡視力障害)センターに来ていたわけではなかったので。

小島自分から手を挙げて来たわけじゃなくて、やってみないか?という先生の言葉に誘われて来たと。

江黑だから、世界に出て行って負けるたびに泣く彼女たちの姿を見て思いましたよ。この子たちにどうしてこんなにつらい思いをさせなきゃいけないのか。私と出会わなければ、彼女たちは苦しまなくて済んだ。出会って、やることに決めてしまったから、その苦しみを経験しなければいけなくなってしまったんじゃないか、って。

小島その苦しみや困難、挫折に遭遇したときに、選手はどんな反応を?

江黑そこで負けて悔しくて、でもまたトライしたいっていう子たちだったから金を取ったんじゃないかなと思うんですよね。もちろんそういう中で挫折する子はいるとは思います。ただ、私がキャプテンにずっと言い続けたのは、「世界一になれるよ」って言葉でした。

小島その根拠は?

江黑ないですよ。

小島ないんですか!(笑)

江黑ないですね。でも私は言い続けました。「世界一になれるよ」「金メダル獲れるよ」って。

小島本当にそう思って言っていたんですか?

江黑獲りたいというのはありました。自分も昔野球をやっていて、その後夢を諦めて教員を目指したけれど、それもうまくいかなかった。そんな人間が、障害者スポーツの世界で日本一になり、日の丸なんてものを背負うようになって。これはチャンスだ、って思いますよね。

小島その夢を彼女たちと一緒に追いかけたい、と。

江黑正確には、私の夢を選手たちが一緒に追いかけてくれたんだって思うんです。でも、今はもう彼女たちにとっても自分たちの夢に変わったんじゃないかな。変わってくれていることを祈っています。

小島そんな中、パラリンピックで金メダルを獲ったときに、どういう風に思われました?

江黑彼女たちはすごいと思いました。金メダルを獲った瞬間というより、勝ち続けている彼女たちを見ていて、そう思いました。やりはじめた時の姿を知っているから、なおさらすごいなあ、って。獲った瞬間は「ありがとう」という言葉しかなかったです。準決勝のスウェーデン戦がすごく大変だったので、私はそのときに既に感無量で、涙まで出してしまったので、私自身は決勝ではもう泣きませんでしたが、やはり勝って喜びの涙を流している彼女たちを見ていると幸せな気分になりました。私には選手一人ひとりみんなが大切だから、選手が負けて泣くのがいやなんですよ。泣かせたことがすごくいやだから、私が泣かせるんです。

小島泣かせる?

江黑負けるってことは、人からやられて負けて泣くわけじゃないですか。だから、人から泣かされないように、私が泣かせるんです。

小島猛練習したり、練習で厳しくしたり、ということですか。

江黑とにかく負けるのはいやなので。ひとりも負けさせたくないんです。それはゴールボールだけじゃなくて、ひとりの人として、ゴールボールが終わって次へと羽ばたいたときに、ゴールボールをやっていたから私はこうなんだ、っていう自分を見てもらいたいんですよ。

小島結局そういう意味では、障害者スポーツも、普通のスポーツも変わらないですよね。

江黑そうです。

小島スポーツでがんばったことがベースになって、その後それを辞めて社会に出ても、「あのときがんばれたんだから、ここでがんばれないわけがない」と思える。

江黑障害者スポーツの中のゴールボールっていうよりは、スポーツの中の障害者スポーツであって、そこにゴールボールがあるんです。私の仕事はそれを発見できるようにしてあげることなのかなって思うんです。

<次のページへ続く>



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