調査研究

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2020年2月2日

シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」を開催しました

シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」

ヤマハ発動機スポーツ振興財団は、2月2日(日)東京・御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにてシンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」を開催しました。本シンポジウムは、当財団が2012年より取り組んでいる「障害者スポーツを取り巻く環境調査」結果報告の一環として実施したものです。

障害者スポーツをテーマとしたシンポジウムは、2014年の「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」(神戸と東京の2会場で開催)、2015年「パラリンピック選手発掘・育成・強化システムの現状と今後の方向性について」、2016年「障害者スポーツ選手発掘・育成・強化システムのモデル構築に向けて」、そして2017年の「障害者スポーツのテレビ放送における社会発信の変化」に続いて6回目の開催。

本年夏のパラリンピック開催に伴い、障害者スポーツを取り巻く環境が大きく変化する中、2018年度に取り組んだ「障害者スポーツ競技団体の実態調査」の結果を踏まえ、パラリンピック種目になっている競技、そうでない競技の実態や今後の課題、展望について、来場者の皆さんとともに考えました。

当日は当財団障害者スポーツ・プロジェクトを代表して小淵和也氏(公益財団法人笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター)が調査研究結果と課題を報告。あわせて、パラリンピック競技団体として日本身体障がい者水泳連盟の櫻井 誠一氏と日本車いすフェンシング協会の小松 眞一氏、パラリンピック競技以外の団体として日本アンプティサッカー協会の杉野 正幸氏がそれぞれの団体の概要や現状の課題などについて発表されました。

また小淵氏をコーディネーターに、パネルディスカッション「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」を実施。小淵氏からの主旨説明に続き、中森邦男氏(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会 日本パラリンピック委員会 参事)より協会加盟団体におけるパラリンピック競技の団体と、パラリンピック競技以外の団体の現状から「事業内容も資金面でもパラリンピック競技団体に対する支援は他の競技団体と比べて圧倒的に多い」との問題提起いただいたのち、パラリンピック競技団体の代表として先の櫻井氏、小松氏、パラリンピック競技以外の団体の代表として杉野氏がパネリストとして「東京2020パラ開催決定後の変化について」と「東京2020パラ終了後の展開」の2つのテーマに沿って活発に意見を交換しました。

最後に当財団障害者スポーツ・プロジェクトのプロジェクトリーダーである藤田 紀昭氏(日本福祉大学スポーツ科学部教授)より「東京2020パラリンピック開催決定を受け、障害者スポーツがもっと良くなるのではないかと夢を描いた。しかしパラリンピック競技の強化に関する環境は大きく変わったが、それ以外のことはほとんど変わっていないのが現実ではないか。みなさんそれぞれの立場で障害者スポーツ競技団体の支援について考えてもらえたら幸甚。これからも調査を続けていくのでご支援を」との挨拶にてシンポジウム2020を終了しました。

調査結果報告

小淵 和也氏(公益財団法人笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
調査の概要

パラリンピック競技の団体(以下「パラ団体」)とパラリンピック競技以外の団体(以下、「パラ以外団体」)を対象に「組織形態と事務局運営体制」「組織の構成と運営」「実施している事業内容」「2020年以降の運営体制」などの項目を調査しました。

分析結果からわかったこと

法人格の取得や職員の雇用、事務局体制などは「パラ団体」の方が充実しており、「パラ以外団体」と相当の差があるのが現状です。一方で、パラリンピック以降の運営や人員の配置については、「パラ団体」が縮小・削減傾向なのに対し、「パラ以外団体」は拡大・増員の意向を示しています。つまり2013年にパラリンピックの開催決定以降、「パラ団体」は、数も注目度も予算もグンと上がり、2020年をピークととらえているのに対し、「パラ以外団体」は、逆にパラリンピックの追い風が、障害者スポーツ全体に波及することを期待し、2020年を飛躍のきっかけと考えていることが見えてきました。

2020年以降

2020年が終わった時に「パラ団体」の縮小をどれだけ抑えられるか、急激に下がってしまったら、なんのためのパラリンピックだったのかとなりかねません。多少の減少は仕方ないまでも、現状を維持できるか、「パラ団体」と「パラ以外団体」がパラリンピック以降どう動いていくか、今後も注目していきたいところです。


参加競技団体の紹介

日本身体障がい者水泳連盟について

櫻井 誠一氏(一般社団法人日本身体障がい者水泳連盟 常務理事・技術委員長 / 日本パラリンピック委員会 副委員長)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
概要

1964年東京パラリンピックの後、全国身体障害者スポーツ大会が開催されるようになりましたが、生涯に1度しか参加できない大会のため、「毎年泳ぎたい」「大会を行いたい」という水泳愛好家が集まって1984年に日本身体障害者水泳連盟を発足し独自の大会を開催。その後、強化指定選手制度や大会開催数や公認大会を増やすなどの活動を続けてきました。

拠点

拠点は神戸に事務機能、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)内に東京オフィス、そしてナショナルトレーニングセンター(NTC)近くに強化拠点とNTC・イーストにコーチング室と分散しており、課題です。

ルール

パラリンピックの水泳競技は、国際水泳連盟の健常者ルールに、障がいに配慮した泳法というものを加味し、障がいの程度に合わせた形で世界パラ水泳連盟のルールが作られています。

事業構造

事業構造は、「パラ水泳普及、社会貢献等の実施」「強化・育成・発掘、国際展開の充実」「自立可能な戦略的経営」の3つの大きな柱からなります。

会員数

我々の会員数は701名です。最近は注目度が高くなり、入会希望も増えています。高齢化社会ですが、10代の会員が増えており、2020年だけでなく2024年、2028年の大会にも期待が持てる構造です。

財務

財務関係は、協賛企業を募る活動の成果もあって、2013年から助成金収入と協賛金収入が増えています。しかし経常費用も増えており、結局、経常収支は変わっていない構造で、ある意味厳しいところです。


日本アンプティサッカー協会について

杉野 正幸氏(特定非営利活動法人日本アンプティサッカー協会 副理事長 / 元日本代表監督)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
概要

アンプティサッカーは、主に病気や事故で足を失った人たちが、クラッチと呼ばれる松葉杖を使いながら体を支えてボールを前に蹴り、腕を失った人たちが腕一本でゴールを守るサッカーです。

2009年12月に協会設立。日本障がい者スポーツ協会と日本障がい者サッカー連盟、そして世界アンプティサッカー連盟に加盟しています。9チームが登録しており、登録選手数は104人。性別では10代・20代・30代に1人ずつ女性の選手がいます。また19人がゴールキーパーで、残りの85人がフィールドプレーヤーです。

年間の活動は、5月にレオピン杯Copa Amputeeという全国大会と11月に日本アンプティサッカー選手権を開催。その間にリーグ戦・交流戦を行っています。

世界でアンプティサッカーを導入している国は全部で47カ国。地雷や内戦などで負傷した人たちが気軽に、また安価で始められる競技であることから、アフリカにチームが多い。クラッチと呼ばれる松葉杖は、一対8,000円くらいなので、競技人口は増えていくと思います。

課題

課題は3つ。まず「普及」。競技人口が少なく、活動機会や試合数も少なく、我々の情報発信も行き届いていません。つぎに「強化」。活動費が少ないので選手層が薄く、パートナー企業から資金を得ても選手に行き渡らず、代表選手ほどお金がかかります。そして「組織」。組織運営に専任スタッフがいません。すべてボランティアで人数が少なく、非常に最低限のことしかできない。一人当たりの負担が大きいという問題を抱えています。

これら課題の根本は、アンプティサッカーの認知度の低さです。そこで協会設立10周年記念事業として、海外から代表チームを呼んで日本初の国際大会を開催し、アンプティサッカーの魅力を訴求していきたいと思っております。大会は2021年2月に開催予定です。


車いすフェンシングの特徴および2020東京に向けての活動ついて

小松 眞一氏(NPO 法人日本車いすフェンシング協会 理事長 / 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 車いすフェンシング競技チーム スポーツマネージャー)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
概要

車いすフェンシングは、腕の長さに合わせて対戦者間の距離を調節し、ピストと呼ばれる装置に110°の角度で車いすを固定して上半身のみで行います。車いすを固定し、全く逃げられない状況で攻撃したり防御したり、一瞬の駆け引きが面白い競技です。

1964年東京パラリンピックに団体で出場しましたが、それ以後活動はなく、1994年に京都の障害者スポーツセンターで開催した車いすフェンシング教室をベースに1998年日本車いすフェンシング協会が設立。2000年シドニー、2004年のアテネ、2008年北京に選手を派遣。東京2020決定以降、環境が非常に変わりました。2017年には京都の練習会場がNTCに認可され、2018年12月には日本で初めてのワールドカップを京都で開催。

選手育成・発掘

選手の育成に関しては、パラリンピックに向けて、香港からゴールドメダリストを指導者として呼んだり、2017年以降、ヨーロッパ中心に行われているワールドカップに転戦しています。今後は各地でイベント、デモンストレーション、体験会を開催し、選手の発掘を考えています。

パラリンピック

パラリンピックの出場枠は、車いすフェンシングを行っている国が現在50カ国と選手人口も増え、非常に厳しい状況です。東京大会の出場メンバーは5月31日の発表までわかりません。また東京パラリンピックでは、国際車いすフェンシング協会が役員、技術委員会メンバー、審判を派遣。日本車いすフェンシング協会としては大会の運営をサポートします。

今後について

今後は京都の拠点とNTC・イーストの東西2カ所で強化していきたいと思っています。もう一つは、指導者、コーチを育てること。それから競技ボランティアの養成です。選手の車いすをピストに固定するボランティアが欠かせません。東京パラリンピックでも競技ボランティアが非常に重要ですので、練習会・講習会を開催しています。さらに今後は健常者もできるシッティングフェンシングを目指し、車いすフェンシングを広めていきたいと思っています。


パネルディスカッション

小淵 和也氏より パネルディスカッションの主旨について
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」

パラリンピックのレガシーの側面でみた場合、1964年東京パラリンピックでは、大会後に日本身体障害者スポーツ協会が設立され、全国身体障害者スポーツ大会が開催されうようになりました。1998年長野パラリンピックでは、日本身体障害者スポーツ協会が、三障害すべてのスポーツ振興を統括する組織として、身体を取って日本障害者スポーツ協会に変わりました。2001年には、全国知的障害者スポーツ大会と統合し、全国障害者スポーツ大会が開催されるようになりました。

障害者スポーツの種がまかれて育ち始めたというのが64年。またそれまで障害者のスポーツはリハビリと言う視点で見られることが多かったのですが、スポーツとして見られるようになってきたのが98年以降です。新聞の紙面でも社会面からスポーツ面に移行してきたというのもこの時期。そして迎えた2020年。どんなパラダイムシフトが起こるか、起こっている最中なのか、そんな中での議論です。

今日は、2020年東京パラリンピックを契機にパラリンピック競技団体とパラリンピック競技以外の団体が、それぞれ抱える課題や描く将来像について、会場の皆さんと一緒に進めていきたいと思っております。「パラ団体」と「パラ以外団体」、それぞれの団体の方がご登壇されるのが今日のシンポジウムの特徴と思っています。


各競技団体の現状と課題について。(人員・予算・強化の視点より)

中森邦男氏(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会 日本パラリンピック委員会 参事)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」

一般のスポーツ団体で言うと日本オリンピック委員会、日本スポーツ協会、日本レクリエーション協会の3つに分けているものをひとつにまとめて、日本障がい者スポーツ協会(JPSA)としてやっています。ですのでJPSAの中には、79の競技団体がありますが、その中に日本パラリンピック委員会(JPC)に加盟してる51団体と、そうでない28団体があり、JPCに加盟しているけれども、パラリンピック競技種目ではないデフリンピックなどの団体も半数近くの22団体あります。

すでに小渕さんから報告がありましたので、概要にとどめますが、法人格の取得状況としては、JPCに加盟していない「パラ以外団体」は、半数が法人格がないのに対し、JPCによるガバナンス研修の成果もあってJPC加盟の団体は、1団体を除き全てが法人格を取得。事務所形態では、「パラ団体」は約半数がパラサポの中に事務所を構えています。ただしこれは2022年3月までの期限つきです。また有給職員の状況は、「パラ団体」の平均5.1人に対し、「パラ以外団体」では9割にあたる22団体が有給職員ゼロです。

強化費は、「パラ団体」では専任スタッフや優秀なアスリートへの補助金も含め、1団体平均4,259万円であるのに対し、JPCに加盟していない「パラ以外団体」は0円と「パラ団体」が圧倒的に多いということになります。

また「専任スタッフ等の設置」や「医科学サポート」「ハイパフォーマンス事業」など、JPCや日本スポーツ振興センター、日本財団、JOCがやっている強化を中心とした事業についても「パラ団体」は全て行っているのに対し、「パラ以外団体」はほとんどありません。金銭的にも事業面でも「パラ団体」に対する支援は「パラ以外団体」と比べて圧倒的に多い状況です。

JPSAのオフィシャルパートナーは、現在33社。その中で担当部署名に「東京2020推進」などの名前がついている部署が、4割近くあります。東京2020が終わったら他の部署に移管するかもしれませんが、おそらく事業は縮小、我々のところに入ってくるお金も少なくなると予想しています。


[ディスカッションテーマ1]
東京2020パラ開催決定後の変化

シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
日本身体障がい者水泳連盟・櫻井氏

行政の管轄が変わったことによるメリット、一方で新たな課題が。

日本のスポーツ・リハビリ・トップアスリートの構造から見ると、1964年の東京大会以降の変化として、まず、文部科学省が中心になり、小体連・中体連・高体連・インカレ・国体を頂点とした、スポーツというよりも体育、訓練という形でハイパフォーマンスを追い求めるジャンルができ上がっていきました。一方、障がい者は、厚生労働省管轄下で、リハビリから生涯スポーツ、社会に出ようという方向に進みました。

それが2013年から一変。これまで厚生労働省が担当していた障がい者スポーツが文部科学省に変更。ボランティア組織だった我々の競技団体がプロ組織に変わらざるを得なくなったのです。

管轄が変わったことでパラリンピックを目指し、ハイパフォーマンスを実現したい障がい者アスリートには、メリットがたくさん生まれました。でも裾野を見た時に県民大会・市民大会と言いながら、そこに障がい者は参加できていません。またハイパフォーマンスを追求すれば、プロの意識になってきますから、お金がかかります。しかしボランティア団体はお金がない。かといって再び組織をボランティアに戻したら、ハイパフォーマンスは求められない。この現実を解決せずして、次のステップというのがなかなか見えないんですね。ハイパフォーマンス構造を目指すのか生涯スポーツなのか、組織はボランティアなのかプロなのか、そういう構図の歪みが全てにわたって出てきている感じがします。


日本アンプティサッカー協会・杉野氏

日本サッカー協会との連携が進んだこと、そしてサポート企業がでてきた。

東京オリンピック・パラリンピックが決定して以降、我々を取り巻く環境で大きく変わった点は2つ。まず1つは、これまで日本サッカー協会との間にあった大きな壁が取り払われ、障害者サッカー7団体で構成した日本障がい者サッカー連盟が2016年に設立され、日本サッカー協会との連携を図っていると言うことです。

もう1つは、これまでは年に2回の大きな大会にしか、企業からの支援を受けられなかったのですが、パラリンピック開催決定以降は、年間を通じて我々の活動をサポートしてくださる企業が出てきました。

一方、ネガティブな面もあります。新しくこの競技に関わってくれる選手が増えていますが、それ以上にパラリンピックに出場したいとパラリンピック競技に転籍する選手が非常に多いのです。結局、登録選手数の推移として2015年から74人、76人、95人、99人、そして2019年に104人と大幅には増えていかなかったという関係があります。


日本車いすフェンシング協会・小松氏

練習環境が非常によくなり、選手もコーチも増加

京都の練習会場が2015年秋から365日使えるようになったことが、パラリンピックに向けての大きな変化です。それまでは月に2回あるいは月に1回のペースで、10年ほど練習と言うか、とにかく維持していた状況でした。それがパラリンピック決定以降、当協会としても京都市や京都市教育委員会に色々頼んだところ、廃校を借りることができ、いっぺんに練習環境が変わりました。

それと同時にJPCの選手発掘事業や東京都障害者スポーツ協会の発掘事業などありまして、人員が増えてきました。2015年までは全国に選手2人、コーチが1人しかいないという状況でしたが、2017年には選手が20人、コーチが3人になりました。2019年にはワールドカップに出場するような強化選手が12人と選手層もコーチ陣も厚くなってきました。練習環境自体は非常に良くなってきたというのが、本当に嬉しいことです。


[ディスカッションテーマ2]
東京2020パラ終了後の展開

シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」
日本身体障がい者水泳連盟・櫻井氏

2020年以降の活動資金確保のためにも競技力向上は重要

国際競技連盟が異なるので、その傘下にある日本水泳連盟と我々とでは、なかなか統合できないと思われます。

財務構造では、2016年から協賛企業と助成金が増えて事業を展開。一方で費用もそれだけかかっており、収支はそれほど変わっていない構造です。メダルを取れば助成金は安定して増えますが、メダルが取れなければ減る。勝てるか勝てないかで評価が分かれる。そういう厳しい世界に今、入っているということが1つあります。

また協賛金収入は、2020年のパラリンピックまでという契約が結構あるんです。企業の場合、窓口がどこか、特別にできたオリンピック・パラリンピック室なのか、マーケティングをやる広報なのか、社会貢献のCSRなのか。どこのセクションが窓口かによって、協賛金額がどう変化するか読まなければならないんです。ほとんどがマーケティングかオリンピック・パラリンピック室が窓口なので、協賛金確保のためには選手の活躍、価値が重要です。やはり勝たなければ協賛金も減ると言う発想で物事を見なければならない。そのためには競技力を向上させなければなりません。方や次世代の育成のためには普及も欠かせない。普及には各県・市レベルで健常者に混じって基礎から色んなトレーニングや運動をする機会を作らなければ、次世代を担う選手は出てこないという結論に至っています。


日本車いすフェンシング協会・小松氏

練習環境の確保とコーチ育成が普及への鍵

車いすフェンシングの今後は、2020年のあとNTC・イーストが練習会場になるのですが、強化選手しか入れないので育成やこれからやってみようという選手がパフォーマンスできず。練習環境をどうするか、現状では練習環境がないのが現実です。

NTC・イーストには日本フェンシング協会の道場と車いすフェンシングの道場が一緒に共存しております。同時に事務所も同じスペースの中にあるので、東京2020が終わってからは、事務所機能はそこで対応できるのではないかと考えています。

財源的な問題と人員の配置の問題。それから生活基盤もあるので、コーチをどうしていくか、全く何も見えていない状況なので、今後考えていかなければなりません。

練習拠点は京都と東京の2つあるのですが、来年の春になると京都の練習会場はNTCの看板を外すと言われており、スポーツ庁に買っていただいたピスト、それから審判機は全部NTC・イーストに持っていくよう言われています。車いすフェンシングは、固定する道具・ピストがないとできないので、2020以降、全国に普及していくにあたり、この点に今後の問題があるかなと考えています。


日本アンプティサッカー協会・杉野氏

世界と連携してアンプティーサッカーの知名度を向上させていく

パラリンピックの競技化に向け2020年大会はもちろん2024年大会についてもエントリーはしたのですが、残念ながら正式採用化は見送られてしまいました。

2020東京パラリンピック開催決定以降、メディアに取り上げていただく回数が年々増えています。それを追い風に日本初の国際大会を誘致してアンプティサッカーの認知度を向上させようと考えております。ただ認知向上のために開催する世界大会が1回きりになってしまうのでは意味がありません。そういう状況を避けるため、この大会を契機としアンプティサッカーをやっている47カ国と共闘してパラリンピックの競技化に向けた動きにつなげていきたい。

世界的には大陸間で定期的に大会が行われているのですが、日本が含まれるアジアだけは大陸間の大会が行われていないのです。ですので我々としては10周年記念のイベントを契機にまずはアジアアンプティサッカー連盟を組織化し、アジア大会の実現につなげていくような動きにつなげて行きたいと思っております。


小淵 和也氏 パネルディスカッションを終えて

本パネルディスカッションでは、調査結果だけでは読み解けない実際の現場の声を聞いてみたく、パラリンピック競技団体(以下、パラ団体)とパラリンピック競技以外の団体(パラ以外団体)の担当者にそれぞれご登壇いただいた。テーマは、東京2020パラ大会の開催が決定してからの団体の変化と東京2020パラ大会終了後の組織運営の方向性の2点に絞った。調査結果同様、パラ団体とパラ以外団体では、東京2020パラリンピック大会に対する捉え方は異なっていたが、実態はより複雑で難解なものであることを改めて感じる機会となった。

東京2020パラ大会の開催決定後の動きに関していえば、トップアスリートが競技に打ち込むための支援、練習環境の整備、行政支援、団体登録者数の増加、選手層や指導者層の充実などポジティブな面が多く見られた一方で、障害者スポーツの普及を進めるうえで欠かせないボランティアに対しての要求の高度化、2020年を日本代表選手として迎えたいアスリートのパラリンピック競技への転籍など、別の一面を伺うことができた。

後半は、2021年以降の団体運営について競技力向上、普及啓発の観点から今後の方向性について語っていただいた。行政支援、企業スポンサーの減少、メディアの注目度の低下など、東京2020パラ大会終了を機にネガティブな要因がどうしても先行してしまうなか、冷静に現状を把握して事業を進めていこうとする姿勢が印象的であった。まずは前提条件として結果を出したうえで、企業からの協賛金支援に向けた交渉、結果を出した選手を取り上げてもらうためのメディアとの出演交渉など、決して充分とは言えないスタッフ数で、競技力向上と普及の両面にアプローチしなければならないジレンマは、全ての競技団体に通ずる課題であろう。対策として、普及地域をアジア圏にまで拡大したり、普及対象に障害のない人を含めるなど、これまでとは異なる工夫をしながら、普及と競技力向上を同時に進めようとする取り組みは非常に興味深いものであった。

本パネルディスカッションにおいて、様々な要因が複雑に絡み合っている競技団体の現状の一端を共有することができたかと思う。残念ながら、各競技団体が抱える課題や不安について、適切な処方箋をすぐに提示することは難しいが、参加してくださった方、報告書を見てくださった方と問題意識を共有し、今後の対策に向けた意見交換を進めていければと思う。


藤田 紀昭氏 本シンポジウムを通して
(日本福祉大学スポーツ科学部教授 ヤマハ発動機スポーツ振興財団障害者スポーツ・プロジェクト プロジェクトリーダー)
シンポジウム2020「障害者スポーツ競技団体の課題と展望」

7年前、東京パラリンピックが決まった時、私たちは何となく障害者スポーツがすごく良くなるのではないか、バラ色の夢を描いていた気がします。しかし、誤解を恐れずに言えば、パラリンピック競技の強化に関する環境は大きく変わったけれども、それ以外のことは競技団体のあり方も含めてそんなに変わってないのが現実です。ここが変わっていかないとパラリンピックのレガシーというのはないのではないかと考えています。ですから競技団体自身も変わらなければなりません。パラリンピックの開催が決定して以降、目の前の事務処理に手一杯で、これからのことを考える余裕はなかったのではないかと思います。でも国内を統括する競技団体として、各競技の普及と強化に責任を持ち、ビジョンを持って、そのビジョンを実現するためにしっかりとした計画を立てて進んでいく、そういうことが必要ではないかと感じました。現状を踏まえた上で、それぞれの立場からできる形で競技団体を支えていく、ということを考えていただければ、私たちの調査が生きてくるではないでしょうか。


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