全国児童 自然体験絵画コンテスト

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水辺に学ぶ体験レポート:Vol.8

小学2年生 中澤亮さん(東京都大田区)

子どもの自主性を生かし「好き」を伸ばす

中澤亮さんの作品は、描くこと自体が目的ではなく、あくまでも大好きな魚や釣りなど、体験の延長線上にあり、それを通して得たものを記録・記憶したり、「好き」を表現したりする手段です。だからこそ作品には、亮さんだけが感じられる色や形が詰まっています。こうした子どもが伸びる環境を作るのがご両親。体験、感動、記憶を何度も繰り返しながら、亮さんの可能性を大きく広げています。

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愛情を持って子どもの「好奇心」をサポート

中澤亮さんは、平成28年(第28回)の本コンテストで、ジャパンゲームフィッシュ協会会長賞を受賞しました。この作品を選んだNPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会の岡田正文審査員は、「カラフトマス、アユ、オショロコマという具体的な名前が出て、カラフトマスの背中など特徴をよく捉えて描いていることに驚きました。いつの日か、この作者が大人になり、すばらしい釣り人になってくれることを期待します」と、その選考理由を話しています。今回は中澤さんご家族の新潟県・越後湯沢への自然体験旅行に密着。皆さんと一緒に自然体験を行い、審査員をうならせるほどの作品ができあがった背景を探ってきました。

最初の印象は、どちらかといえばシャイでおとなしい雰囲気の亮さんですが、1日の計画のほとんどは亮さんが決めていきます。お父様伸昭さんは、「ここには、月一度のペースで通っています。とにかく、亮はクタクタになるまで遊びますから、私たちもついていくのがやっと。この地域に詳しい定宿ロッジきくのやのご主人、腰越富男さんのご協力もあり、早朝から暗くなるまでみっちり湯沢の自然を満喫しています」と笑います。お母様うつみさんは、「湯沢に行くのは、1年を通じて四季の中で自然の移ろいを感じてほしいという狙いもあります。今回は釣りが中心ですが、腰越さんの田んぼを借り、稲を育て、そこで虫の観察もしています。冬は指導者の資格を持っている夫の指導のもと、スキーもしているんですよ」といいます。

中澤家の自然体験は、湯沢だけでなく、海、川、湖といったさまざまな場所に及びますが、亮さんが自然の中でアクティブに活動するようになったのは、機会を作り続けてきたご両親の努力の賜物。特に伸昭さんは、子どもの頃から自然体験活動に参加するなどさまざまな活動をしており、自然に向き合う姿勢、釣り・スキーといったアクティビティーも、亮さんの「師匠」となって、その経験値を染み込ますように伝えているのです。実際、どんな場面でも伸昭さんは亮さんの側から離れることはありません。支えながら、ともに苦労し、悔しがり、喜び… その姿はまさに一心同体です。

描くことは興味を膨らます大切な行為

自然体験旅行の初日は、田んぼに出かけ稲の成長を確認した後、山深く分け入っての源流トレッキングを行い、イワナの捕獲に挑戦。石を動かし水量を変化させ、流れを一点に集中させて上流から追い込む手法をとりましたが、残念ながら捕獲は失敗。しかし亮さんにめげる様子はありません。「その過程もまた楽しめる。結果だけを求めないところが、亮のイイところ!」と伸昭さん。

そして「次は川に行こう!」と計画を定めます。6月半ばとはいえ、足を入れると冷たい川の中にどっしりと根を張り、網を片手に魚を狙います。さらにその後は転々とポイントを変えながらの釣行。川面に睨みを利かすその目は、岡田審査員の期待に応えるかのようにすでに釣り人のそれ。釣果も伸昭さんに圧勝でした。

「私たちが誘うまでもなく、自ら考えて行動するところが亮の特徴です。自分の決めたこと、もしくは興味のあることだからこそ、一生懸命に取り組み、継続していけるのだと思います」(伸昭さん)

うつみさんが「学校では、お友達から“さかなクン"と呼ばれているんですよ。釣りの楽しさや魚のことを、たくさん話しているからだと思います。絵を描き始めたきっかけは、自分が捕まえたり、釣ったりした魚を記録することでした。絵を描くことが主体ではなく、興味の拡大であり、体験の記憶を残す行為なのかもしれません」というように、亮さんは釣った魚にも向き合います。じっくりと見たり触ったり。飽きる様子は一切見せません。

翌日、早朝の釣りを終えて朝食をとった後、釣った魚を改めて水槽越しにじっくりと観察しながらペンを走らせます。できあがった作品を見せてもらうと、我々には見えないさまざまな色が使われていました。実体験の中で育まれた好奇心と興味、高く広く張り巡らされた感性もまた、作品の創作につながっているのです。

結果よりもそこに至る過程を大切に

ご両親は「自然の美しさはもとより、食物連鎖や生き物の姿など、自然の持つ合理性、命の尊さ、自然の怖さなどを五感で感じ取って欲しいという思いがあります。そして、いろいろなことにチャレンジする中で、結果よりも過程を大切にしてほしい。釣りではうまくいかないこともありますが、しっかりと準備をして、釣れなくてもくじけず工夫する。釣れるまで我慢する。こうした、社会人になった時にも必要なスキルを身につけていると感じています。幸いにも亮は子どもらしい子どもに育っています。何事にも素直に向き合い、一生懸命にチャレンジできることが自慢です」と目を細めます。

絵を描き終わった後、「釣りに行きたい」という一声でこの日の行動が決まりました。そこで、一番好きなことは何かな? という質問を投げかけると「絵も好きだけど、釣りが一番です。大きくなったら漁師になりたいです」と、迷いなく答えるその姿に、ご両親はうれしそうに笑みを浮かべます。

今後も、自然体験を中心に、ご両親は機会を作り続けていくそうです。それはきっと亮さんの描く作品だけでなく、人生にもさまざまな影響を与え、その可能性を大きく広げていくことでしょう。

(平成29年6月取材)



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