調査研究

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2018(平成30)年度

障害者スポーツを取巻く社会的環境に関する調査研究
-パラリンピアン、競技団体、大学、地域現場に着目して-

大学の先進的取り組み調査について

調査目的

障害者スポーツに関わる活動を先駆的に行っている大学の事例収集を行い、今後の大学における障害者スポーツ振興を検討する際の基礎資料を得ることを目的とする。


調査方法

4大学の教員計5名を対象にそれぞれ1時間程度の聞き取り調査を行った。


順天堂大学

順天堂大学
日時 2018(平成30)年8月29日
場所 順天堂大学さくらキャンパス1号館会議室
回答者 順天堂大学スポーツ健康科学部 渡邉貴裕 先任准教授
順天堂大学スポーツ健康科学部 渡正 准教授
聞き手 河西正博(同志社大学スポーツ健康科学部)
尾鍋文光(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団)

調査結果

  • 2017年度にスポーツ庁委託事業「大学横断的かつ競技横断的統括組織(日本版NCAA)創設事業」に採択され、「大学スポーツを通じた地域貢献、地域活性化」、「スポーツ教育の推進」、「スポーツ科学の研究とその成果の社会還元」を柱として、障害者スポーツをテーマとして、学・産・官・スポーツ団体と連携した各種事業を行う。

  • 学内活動として、学校現場がインクルーシブな環境に変化している中で、養成課程がインクルーシブになっていないという状況は良くないということで、教職に関わる科目ならびに体育実技の中に、1コマないし2コマ程度、障害に関わる内容を含む形で授業を展開

  • 教職志望学生にインクルーシブ教育や体育を学んでもらうべく、バスケットボール授業で車椅子バスケットボール、サッカー授業でアンプティサッカーなど、近接する障害者スポーツ種目を実施している。また、単なる体験に留めずアクティブラーニング視点から「もしクラスに車椅子に乗っている生徒がいたら、バスケットボール授業はどうやって行うのか」との問いかけをし、実際の体育授業を想定した取り組みも行う。

  • 課外活動団体として障害者スポーツ同好会が立ち上がり、学内外で様々な活動を行っている。現在、80名ほどの学生が所属し、その多くは体育会運動部との掛け持ちをしながら、自分たちでパラスポーツ体験を実施したり、近隣市町村や企業向けの体験会等の指導実践を行う。

  • 競技団体との協同事業として、2018年1月に日本ゴールボール協会、日本ボッチャ協会と連携協力協定を結び、各種普及活動、選手強化、特別支援学校向けの競技指導プログラムや教材作成等を行う予定。


北九州市立大学

日時 2018(平成30)年8月21日
場所 北九州市立大学北方キャンパス会議室
回答者 北九州市立大学地域創生学群 山本浩二 准教授
聞き手 河西正博(同志社大学スポーツ健康科学部)
尾鍋文光(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団)

調査結果

  • 「現場のリアルな理解にもとづく地域の再生と創造」という理念に基づき、1年次から各種現場実習が行われている。実習教育に関して、他の大学であれば、低年次で実習に関わる知識を身に付けた上で各種現場に臨むことが一般的だが、本学群では1年次から実習が単位化され、地域に学生を出す形を取っている。

  • 地域ボランティア養成コースでは、実習の一環として福岡県内の障害者スポーツ施設(北九州市障害者スポーツセンターアレアス、クローバープラザ)と連携し障害児・者のスポーツ教室、水泳教室のサポートを行う。学生が実習により「生きた知識」を学ぶことによって、上級生になってからのゼミや演習での議論が非常に活発となり、初年次からの実習教育の意義や効果を感じることができる。

  • 正課・正課外の活動として車椅子ソフトボールに取り組み、練習を地域に開放し、ゼミの学生と障害のある選手がともにプレーしている。大学入学から3年間近く密に障害者と関わるため、強い人間関係が構築でき、一人の人としての関わりがもてると同時に、その点にこそ教育的価値があると考えている。

  • 地域創生学群では『中級障がい者スポーツ指導員』の資格が取得可能となっており、地域ボランティア養成コース(1学年約30名)では、ほとんどの学生が中級資格を取得している。


久留米大学

日時 2018(平成30)年8月22日
場所 久留米大学筑水会館会議室
回答者 久留米大学人間健康学部 滿園良一 教授
聞き手 河西正博(同志社大学スポーツ健康科学部)
尾鍋文光(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団)

調査結果

  • 2017年度より人間健康学部内にスポーツ医科学科を開設し「地域と連携・協働した健康、スポーツ・運動の支援について実践的に学修する」という理念のもと、正課・正課外において積極的に障害者スポーツに関わる活動を行っている。

  • 障害者スポーツのみならず、学科開設前より、アスレティックトレーナーおよび健康運動指導士の資格認定校になっており、近隣のスポーツ団体と連携し様々な支援活動を展開している。福岡県障がい者スポーツ協会との連携で、知的障害児を対象とした親子体操教室を実施しており、月に1回第4土曜日に知的障害児とその保護者を対象とした運動教室に学生が参加をしている。

  • 「AST(Adapted Sports Team)」を設立し、学内外で様々な活動を行っている。ASTの中心的な活動の1つとして、「ふれあいスポーツフェスタ」を開催。ASTの学生が企画運営を行い、関連団体(親子運動教室・博多パトラッシュ・関係大学等)の協力のもと、年1回実施している。実施種目はブラインドサッカー、風船バレー、卓球バレー、ツインバスケット等、10数種目の体験を行っている。


広島大学

日時 2018(平成30)年9月10日
場所 広島大学霞キャンパス会議室
回答者 広島大学大学院医歯薬保健学研究科 前田慶明 講師
聞き手 河西正博(同志社大学スポーツ健康科学部)
尾鍋文光(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団)

調査結果

  • 2014年に、学生有志によって広島大学霞アダプテッドスポーツクラブ(以下、ASC)が設立されている。これは県内の障害者スポーツ関係者からイベントの紹介があり、学生にボランティアを募ったことがきっかけ。学生からサークルを作りたいという声が挙がり、設立当初は理学療法専攻の学生のみが参加していたが、活動が広がっていく中でメンバーも増えていき、現在では作業療法専攻、看護学専攻の学生も参加しており、総勢約40名程度の学生が活動中。ASCの特徴は他の学内サークルとは違い、積極的に地域に出ていくことで社会とのつがなりがある、様々な障害のある人たちとのつながりがあることだと考えている。

  • ASCの役員学生が中心的に活動調整や役割分担を行っており、3年ほど前から三原キャンパスの学生とも連携を取るようになり、両キャンパスで活動が広がってきている

  • ASCは広島大学内のみならず、県立広島大学、広島国際大学、大分大学、鹿児島大学、西九州大学等、県外で同様の活動を行っている大学との連携も行っている。他大学との交流や、障害者スポーツ体験会の開催、大会ボランティア等、サークルの活動は多岐に渡っている。

  • 付属病院内にあるスポーツ医科学センターの理学療法士と連携をして、センターが関わる大会やイベント等の運営も行っている。


担当者のコメント
河西 正博氏

河西 正博
(同志社大学スポーツ健康科学部)

順天堂大学は、「大学横断的かつ競技横断的統括組織(日本版NCAA)創設事業」に採択され、学内外で障害者スポーツに関わる様々な事業を展開しています。学内のカリキュラム整備に関して、他大学では「障害者スポーツ」に関する科目を立ち上げて、専門の教員が担当することが一般的ですが、そのような形を取らず、現行の教職科目ならびに体育実技の中に数コマ程度、障害に関わる内容を含む形で授業を展開しているが特徴的な取り組みとなっています。

北九州市立大学、久留米大学は、障害者スポーツに関わる活動が「授業の一環」として実施されている点が特徴的です。両大学では近隣の障害者スポーツセンターとの連携による諸活動が授業に組み込まれていると同時に、正課外でサークル活動も積極的に行われていることから、「正課・正課外活動一体型」の取り組みとなっており、学生の学びと障害者スポーツ支援が一体化した好例と言えるのではないでしょうか。

広島大学では、学生有志によってアダプテッドスポーツクラブ(ASC)が設立され、県立広島大学、広島国際大学、大分大学、鹿児島大学、西九州大学等、県内外の大学と連携しながら各種障害者スポーツの体験会や教室等を行っており、年々活動の幅が広がってきています。近年、大学における障害者スポーツサークルの活動事例は多くみられるようになってきていますが、本事例のように県内外の複数大学を巻き込んだ活動展開は非常に先進的なものであり、学生による障害者スポーツ振興・支援を進めていく際の好例と言えるでしょう。


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