被災地支援

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スポーツ教材提供先訪問レポート:Case1

大槌町教育委員会(岩手県上閉伊郡大槌町)

提供教材:タグラグビーセット

ラグビーが盛んな地域特性とラグビーワールドカップを追い風に小中一貫校でのタグラグビー導入を目指す

「平成27年度スポーツ教材の提供」に申請くださった大槌町教育委員会事務局学務課へ、東日本大震災被災地支援の一環としてタグラグビーセットをお届けしました。震災の影響が残る現在の町の様子や子どもたちの教育環境の実情とともに、今後の学校施設建設計画や教育方針そして、タグラグビーセット活用の具体的取り組み予定についてもお伺いしました。

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現況

岩手県大槌町では、東日本大震災の被害により小学校4校と中学校1校が使用不可能となりました。町内の他の施設や学校に間借りをした後、平成23年9月に町内の運動公園に建設した計5校を集合させた仮設校舎にて授業を再開。平成26年4月には複式学級の解消等学校規模の適正化を図るため小学校4校を統合して大槌小学校として再編。さらに平成27年4月からは、子どもたちの確かな学力と豊かな心を育てる学びを小中間で途切れさせない仕組みとして、大槌学園小中一貫教育校が仮設校舎にてスタートしました。そして現在、早期に充実した教育環境を取り戻すため、平成28年9月の開校目指して災害危険区域外であり高台にある大槌高等学校グラウンドに新校舎の建設が進められています。「学校が完成する平成28年は、震災直後の4月に入学して来た子どもたちがちょうど6年生になる年です。ずっと仮設校舎で学んできた子どもたちに、少しでも長く新しい校舎で学び卒業させてあげたい」(原さん)と工事を急いでいます。

一方、復興事業が進む町中は大型トラックなどの車が行き交い、また公園や空き地など平らで開けた場所には仮設住宅が建ち並んでおり、子どもたちが安心して思い切り身体を動かせる場所がほとんどありません。このような環境の中、大槌町教育委員会の調査(平成25年度)によると、小学生・中学生ともに全体的に全国より肥満傾向出現率が高く、体力・運動能力テストでは全体的に全国平均を下回っている項目が多いそうです。

「特に中学生では肥満傾向が全国平均の約2倍。体力・運動能力テストでは女子の児童・生徒がほとんどの項目で全国と県の平均を下回っている状況です。体育の授業以外に身体を動かす場所や機会を設けるほか、家庭での食生活や過ごし方含めトータルに対応していきたいと考えています」と大槌町教育委員会教育長の伊藤さん。


今回お話を伺った大槌町教育委員会の教育長・伊藤正治さん(右)、教育部長兼教育次長・阿部幸一郎さん(中央)、事務局学務課学校整備班班長・原隆秀さん(左)

今回お話を伺った大槌町教育委員会の教育長・伊藤正治さん(右)、教育部長兼教育次長・阿部幸一郎さん(中央)、事務局学務課学校整備班班長・原隆秀さん(左)

工事用車両が多く見受けられ、あちこちで復興工事が進められている大槌町。交通量が多く登下校時や外で遊ぶ際には細心の注意を払っているそうです工事用車両が多く見受けられ、あちこちで復興工事が進められている大槌町。交通量が多く登下校時や外で遊ぶ際には細心の注意を払っているそうです

工事用車両が多く見受けられ、あちこちで復興工事が進められている大槌町。交通量が多く登下校時や外で遊ぶ際には細心の注意を払っているそうです


今後の活用予定

教育長・伊藤さんは「前々からタグラグビーのスポーツ少年団を作ってはどうかという話が持ち上がっていました。正直、指導者の確保が難しいのですが、今回、タグラグビーセットを提供してもらったことをきっかけに、県のラグビーフットボール協会や、隣の釜石市に拠点を置くラグビークラブの選手・指導者にも協力をあおぎながら、まずは小中一貫校にてタグラグビーを導入していこうと考えています。ラグビーワールドカップ開催に向けて高まる気運も背景に、タグラグビーを活用した子どものスポーツ環境改善に役立てて行きたいですね」。教育次長の阿部さんも「タグラグビーは、体育館などの屋内や狭いスペースでプレイできますし、年齢性別に関わらずみんなで楽しめます。また釜石市のラグビークラブでは、子どもたち向けにスクールを開催したり、選手との交流を深めたりしています。役場内にも有志によるラグビーチームが結成されているなど、大槌町はラグビーに親しみのある地域なのです。ですから、ゆくゆくは中学や高校でラグビーが盛んになり、本格的にラグビーに取り組む子が現れるような流れに結びつけば最高です」とタグラグビー教材の今後の活用方法について語ってくださいました。


地元の木材を活用した大槌学園の完成イメージ図。良好な学習環境の場としてはもちろん、地域住民との共有スペースや災害時の避難拠点としての機能も持たせています

地元の木材を活用した大槌学園の完成イメージ図。良好な学習環境の場としてはもちろん、地域住民との共有スペースや災害時の避難拠点としての機能も持たせています

もともと運動公園であった場所に建つ大槌学園小中一貫校の仮設校舎。小学生401人、中学生262人が学んでいます

もともと運動公園であった場所に建つ大槌学園小中一貫校の仮設校舎。小学生401人、中学生262人が学んでいます

サッカー場の1/3程度の広さのグラウンドは、昼休みは児童が優先

サッカー場の1/3程度の広さのグラウンドは、昼休みは児童が優先


訪問を終えて

「町づくりは人づくりにあり。人づくりは教育にあり」と、復興に向けた教育環境整備に取り組む教育委員会のみなさんの前向きな熱い想いに触れました。子どもたちが思い切り身体を動かして遊べるような公園やスポーツ施設が完備されるのは、役場や消防署、警察などの行政・公安機関を始め、病院、学校、道路、下水道、公営住宅などのインフラが整備された後になることが予想されます。当財団にできることは微力ではありますが、「新しいボールがあるからラグビー選手に声をかけて、タグラグビー教室を開いてみよう」「狭い場所でもできるので、授業への導入に加え、課外スポーツのひとつとしてタグラグビーをやってみよう」など、子どもたちが楽しく身体を動かす機会づくりへの一歩を踏み出すきっかけとして役立ててもらえたら嬉しい限りです。

復興はこれからが正念場ですが、子どもたちの心と身体の健やかな育成を目指して教育環境の再建に取り組まれる大槌町教育委員会のみなさんの活動にこれからも注目していきたいと思います。


仮設校舎にも小中共有の武道場と体育館は完備されています

仮設校舎にも小中共有の武道場と体育館は完備されています

大槌高等学校のグラウンドに平成28年9月の開校を目指して工事が進む大槌学園小中一貫校の建設現場

大槌高等学校のグラウンドに平成28年9月の開校を目指して工事が進む大槌学園小中一貫校の建設現場

小中一貫校が建つ下側斜面に、校舎から半年ほど遅れた平成29年4月にグラウンドが完成する予定

小中一貫校が建つ下側斜面に、校舎から半年ほど遅れた平成29年4月にグラウンドが完成する予定

(2015年7月訪問)


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