スポーツ教材の提供

スポーツに親しむ機会の充実を目的に教材を提供
 教材活用アイデアレポート

[Case14]他種目競技を体感する機会創出の一環として、馴染みの薄いタグラグビーをあえて採用

提供教材:タグラグビーセット

NPO法人総合型りくぜんたかた(岩手県陸前高田市)

子どものうちに色々なスポーツを体験することで、体力の向上や心身の発達を促し可能性を広げる

Case14 NPO法人総合型りくぜんたかた(岩手県陸前高田市)

東日本大震災以降、身体を動かす機会が激減。「震災による苦境を乗り越え、子どもから大人までがスポーツを通して、自分らしく元気な生活を送れる環境を、より良い地域を創りたい」という有志の強い想いから陸前高田市初の総合型地域スポーツクラブとして3年前に誕生した「特定非営利活動法人総合型りくぜんたかた」さん。隣の市の支援学校の授業サポートでタグラグビー教室を開催すると聞きお邪魔しました。

Philosophy: だれでも、いつでも、集える場、機会を作りたい!!

「被災により市内の環境は大きく変わってしまいました。各所で工事車両が走りまわり、公園などの平らな広い場所は全て仮設住宅に使われているため、子どもたちが外で自由に遊ぶことがままなりません。校庭や市内唯一のスポーツ施設の敷地内にも仮設住宅が建ち並び、体育の授業や部活動では気を遣いながら行っている状況です」と話してくださるのは、「総合型りくぜんたかた」の吉田さんと戸羽さんです。

震災以前から総合型スポーツクラブ設立の動きがあったそうですが、震災によるスポーツ環境の悪化に伴い、子どもから大人まで少しでも身体を動かせる場所・機会を提供したいと奮起したのです。設立当初は教室への参加者が1人、2人ということもあったそうですが、現在は、ソフトテニスやダンスなどの定期教室に加え、夏休みや冬休みの長期休暇時に開催する水泳やスキーなどの特別教室、年に1度の運動会、体験教室、保育園や学校の授業サポートなど、幅広い活動を展開。口コミ効果で会員数も子どもから70歳の年配者まで、170人にまで増えたそうです。

「震災から2年が過ぎ、そろそろ身体を動かしたいと思うタイミングでもあったんだと思います。そんな何かしたい、身体を動かしたい人のきっかけづくりになればと、ヨガやノルディックウォーキングなどの比較的どなたでも参加しやすく、場所も選ばない種目を中心に開催しています。ヨガは働いている方でも参加しやすいように夜の部も設定。またポイントカードを作って、継続して参加するためのモチベーションを保持する工夫もこらしています」(戸羽さん)

Plan: 提供できる種目の幅を広げる一環としてタグを選択

当財団のスポーツ教材の提供に申し込む際、サッカーではなくタグラグビーを選択した理由について吉田さんは、「サッカーは色々なところで触れる機会があるし、復興支援のサッカー教室のようなものも開催されていました。釜石ではラグビーが盛んですが、この辺ではあまり馴染みがなく、新しいスポーツの方が新鮮で、クラブの活動の幅が広がると思ったんです」。「総合型りくぜんたかた」さんでは、何種目もの活動に参加して欲しいという思いを込めて、“虹”をクラブのモチーフにしているのですが、タグラグビーは体験教室やサポート授業として開催され、メニューの多彩化に一役買っているようでした。

Do: 指導員の教え方等から独学で身に付けた指導方法

「実は教材として提供されたことがきっかけで、タグラグビーについて学び始めたんです」と戸羽さん。そこで今年の1月、野球スポーツ少年団の子どもたちを対象に体験教室を開催するにあたり、県のラグビーフットボール協会から指導員を招聘し、基本ルールの説明やタグ取り鬼ごっこ、パス練習など、タグラグビーの指導方法を学んだと言います。そして分からないところや疑問点などは、協会の方に聞いたり、いただいたCDなどを見て、指導方法を身に付けたそうです。

「教室開催に幅が出て自由度が高くなるので、スポーツ吹矢も指導員資格を取るなど、できるだけ自分たちで教えられるようになろうと取り組んでいます」

Check: タグラグビーの楽しさ・トライを中心に体験教室開催

指導方法を学んだ後、2月にはさっそく市内の小学校5・6年生の授業サポートとしてタグラグビー教室を開催し、指導者デビューを果たした吉田さんと戸羽さん。今度は隣の市にある支援学校で選択体育の授業としてタグラグビーを行なうにあたり「子どもたちにとって、タグラグビーの楽しさって一体なんだろう?」と考え、行き着いたのが「ゴールする喜び」だったと言います。

「小学校の授業サポートでは、ラグビーフットボール協会の指導員の方が行なっていたように、ルール説明からタグやボールの扱いについて段階を踏んで指導したのですが、支援学校のみなさんが個々の能力に合わせて、楽しく興味を持ってタグラグビーに参加してもらう工夫のひとつとして、トライすることに重点を置きました。トライするためにはどうするのか?パスが重要になるね?じゃぁ、パスはどうやったら相手に回るのか?と逆算して指導・習得していくのもありなのではないか」とお二人は考えたそうです。

Action: 親子教室や学校の体験授業の一環にタグラグビー導入
提供種目の拡大と若い指導者の育成を目指す

「“ボールを持ったら前に走っていい、でもパスは後ろ”というのが、慣れるまではなかなか難しく、後ろに走ってしまう子どももいるのですが、タグラグビーは子どもの意外な一面が発揮できるスポーツでもあるので、親子で参加できる教室開催も面白いのではないかと思います。また学校の体験授業の一環としてタグラグビーを導入できるように働きかけているところです」と吉田さん。

そして「総合型りくぜんたかた」さんとしては、「会員数の定着に向けて、“ここに来たら楽しいスポーツが色々できる”という理想の実現を目指し、自分たちが今できることをひとつずつ積み重ね、種目や機会の増加を図っているところです。今は私たちが積極的に指導したり、指導者を探していますが、現在参加してくれている子どもたちがいずれ大きくなり、指導する立場となってこのクラブに戻って来てくれたら本当に嬉しい」と戸羽さん。

教材提供がきっかけで、競技種目拡大の一環として、まったく縁がなかったタグラグビーに新たに取り組んでいただくことになった「総合型りくぜんたかた」さんの活動は、現役ソフトテニスプレーヤーの吉田さんと元体育教師という戸羽さんのスポーツに対する熱意と指導力があってこそ、周りの協力も得られて成り立っているものでした。また当財団が教材提供の取り組みを通じて願っている「子どもたちが身体を動かすきっかけづくり」にまさに合致しており、私たちの活動が広く活用されていることに喜びを覚えました。

(2015年7月取材)

「総合型りくぜんたかた」さんより その後の活動報告

ワールドカップでの人気にあやかり、周辺の小学校を対象にタグラグビー体験教室の案内をしたところ、いくつかの学校から申し込みがあり、訪問指導教室を開催しました。タグラグビーの体験がはじめての子どもたちも先生も、楽しみながらゲームまで体験していました。

(平成28年2月)