セーリング・チャレンジカップ IN 浜名湖

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平成24年・第20回 レースレポート

期間 2012年3月26・27・28・29日
会場 静岡県立三ヶ日青年の家(静岡県浜松市)
共同主催 公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)、NPO静岡県セーリング連盟
参加艇 OP級:33艇、ミニホッパー級:8艇、SR級:25艇、FJ級:11艇
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閉会式後、参加者全員で記念撮影


1993年に第1回大会が開催されて以来、毎年春休みの時期に開催されてきた本大会でしたが、昨年(2011年)の第19回大会は、直前におこった東日本大震災の影響を鑑み、大会史上初の開催中止となり、2012年の第20回大会は2年ぶりの開催となりました。

国体少年種目であるシーホッパー級SRや、そのエントリークラスであるミニホッパー級など1人乗り種目を中心に発展してきた本大会ですが、2006年の第14回大会からは2人乗りのインターハイ種目であるFJ級が採用され、今年の第20回大会からは15歳以下のジュニアクラスとして世界的に普及しているOP級が採用されるなど、ジュニア〜ユース世代の総合大会としての体裁を整えつつあります。

2年ぶりの開催となった今大会には、被災地からの3クラブ(いわき海星高校ヨット部、いわきジュニア、宮古ジュニア)を含めた28クラブ、77艇、87名が参加しました。新種目としてOP級を採用したこともあり、2年前の前回大会に比べほぼ倍増という数字になりました。また、多大な被害を受けた被災地のクラブに対しては参加料の免除と、レース艇の運送費に対する金銭的援助がおこなわれました。

大会は4日間を通じてジュニア〜ユース世代のセーラーにとっては少々厳しいくらいの強風が吹き、本格的なシーズンインに向けて絶好のトレーニングの場となったようです。


GPSを使ってヨットレースの戦略を学ぶ

本大会は、結果だけを追い求める単なるヨットレースではなく、この大会を通じてセーリングというスポーツを多角的に理解することで、大会に参加した選手の技術的向上を図るとともに、セーリングの魅力をさらに掘り起こしていくという目的を持って行われています。

その代表的な取り組みが、毎年招聘している特別コーチによる指導です。今大会に招聘されたのは、ヨーロッパ級(女子1人乗り種目)日本代表としてシドニー五輪、アテネ五輪の2大会に出場した経験を持つ佐藤麻衣子さんと、鹿屋体育大学助教授で北京五輪強化コーチを務める榮樂洋光さんの2人。

今大会初めて行われた取り組みが、各クラスの上位艇にハンディタイプのGPS端末を搭載し、その日に行われた全レースの航跡をプロット、レース終了後に回収した端末からデータを集積したものをヨットレース再現ソフトの上で走らせることで、レースの状況を鳥瞰図(ちょうかんず)としてモニターに再現し、それを見ながらヨットレースの戦略について学ぼうという試みです。

こうした取り組みはほとんどの選手にとって初めての経験だったようで、モニター上に再現された自分たちのレースの様子を食い入るように見つめ、夕食の時間ギリギリまで榮樂コーチを質問攻めにしていました。

レース後の講義だけでなく、レースが行われる海上でも両コーチは熱心に選手を指導し、レースの合間には直接コーチが乗り込んで指導する様子も見られ、選手たちは一流コーチからの直接指導に目を輝かせて取り組んでいました。

OP級では、平日の開催にもかかわらず多くの保護者(母親)がサポートしてくださいました

シーホッパー級SRのマストに取り付けられたハンディGPS端末


GPSによって再現されたレースの鳥瞰図で戦略について解説する榮樂洋光コーチ

海上で選手を指導する佐藤麻衣子コーチ


強風シリーズで培われるセーリングの地力

毎年、この季節の浜名湖は、北西の強風が安定して吹くことで知られ、今大会もレースが行われた3日間のうち2日間は8m/s前後の強風が吹きました。最終日は風の吹き出しが遅れ、3〜4m/sの軽風コンディションとなり、シリーズを通じて様々な風が吹いたことで、成長途上にあるジュニア/ユース世代の選手にとっては最高の舞台が整いました。外海では波が高くなってヨットレースが困難になるような風速でも、波の立ちにくい浜名湖では安全にレースができることから、選手たちは普段練習できないようなコンディションでもレースを経験することができ、たった3日間という期間で強風下でのボートハンドリング技術は大きく向上したようです。

今大会から採用されたOP級では、初日の3レースで3連続トップフィニッシュした蜂須賀晋之介(なごやジュニアヨットクラブ)選手が首位に立ちましたが、午後の出廷申告漏れで5ポイントのペナルティーを受け、全レースを手堅くまとめた女子の中村瑠夏(横浜ジュニアヨットクラブ)選手に6点差で敗れるという波乱がありました。また、学校の行事のため初日の3レースが不参加となった神谷仁(浜名湖ジュニアヨットクラブ)選手は、第4・5レースで連続トップフィニッシュして実力の違いを見せつけました。

8艇のエントリーとなったミニホッパー級では、この大会のために初めてミニホッパー級に乗ったという玉山郁人(丸玉セーリングクラブ)選手が、第2レースでブームを折ってリタイヤするというアクシデントに見舞われながらも、第3〜6レースを全てトップフィニッシュするという破格の走りで、ライバルの小沢聖人(山中湖中学ヨット部)選手に3点差をつけて優勝。

4校の高校ヨット部から11艇がエントリーしたFJ級では、昨年のインターハイ(秋田県由利本荘市)に出場した経験を持つ亀井淳司/上野山貴大(星林高校ヨット部)がオールトップで優勝しました。

本大会のメインイベントともいうべきシーホッパー級SRには25艇がエントリー。中村礁太(神奈川ユースヨットクラブ)、神谷花実(浜名湖ユース)、野々村海人(清水ヨットスポーツ少年団)、土屋渚(海陽海洋ヨットクラブ)の4選手が序盤からハイレベルな接戦を演じ、最終日には中村選手と神谷選手が1点差で優勝を争う展開となりました。運命の最終第8レースは、中村選手と神谷選手の抜きつ抜かれつのデッドヒートとなり、女子の神谷選手が中村選手を抑えて5位でフィニッシュしましたが、カットレースの失点が低かった中村選手が修正得点で上回り逃げ切りの優勝を果たしました。

突風などアクシデントもあったが、風に恵まれ好レースが展開された

今年からOP級を採用。多くの小学生が参加できた


セーリングと安全と命を守るということ

加藤恵さんの講義。津波のときに、海から避難した宮古商業高校ヨット部の様子を伝える

今大会では特別講師として、NPO法人いわてマリンフィールド職員の加藤恵さんを招き、大会初日のレース終了後、昨年の3月11日に経験した津波から避難したときの様子を語っていただきました。宮古商業ヨット部OGで、現在いわてマリンフィールド職員として勤務する加藤さんは、3月11日、沖で練習していた宮古商業高校ヨット部の高校生たちをいち早く上陸させ、安全な場所に避難させる役割を担いました。現場を経験した者にしか語れない生々しい状況に、会議室に集まった選手たちは空腹を忘れて聞き入りました。

ここで加藤さんが強調したのは、ヨットよりも何よりも、まず最優先すべきは自らの命であるということでした。津波を経験したことのない高校生たちは、ヨットを捨ててでも陸に上がれという指示に素直に従うことができず、避難が遅れてしまい、もう少しで津波に巻き込まれてしまうところだった事実を、加藤さんは震える口調で、しかし力強く伝えてくれました。

そんな貴重な講義を受けた翌日、昼食のためにハーバーに戻ったレース艇が、午後のレースのために再び出艇し、午後の1レースを終了したあたりで、西の空から突然真っ黒な雲が広がり、土砂降りの雨とともに、20m/sを優に超える突風が吹き荒れました。

次のレースのためにスタートライン付近に待機していたレース艇は一瞬のうちに吹き倒され、海面に出ていた運営艇は全艇レスキュー活動に入りました。このときレースコミッティの下した判断は、レース艇は海上にアンカリングした上で放置し、選手をレスキューボートに乗り移らせるというものでした。まさに、前日に加藤さんが講義した「人命最優先」の選択でした。

経験豊富なスタッフが乗り込む運営艇の動きは素早く、あっという間に海に投げ出された選手をピックアップしてハーバーへと送り届けました。幸いにも突風は15分ほどで収まり、技術の高い選手は自力でハーバーへセーリングし、全選手が無事に帰港しました。海上に放置したレース艇も全て無事に回収することができ、人的被害はもちろん、物的な被害も最小限に食い止めることができました。

普段「フネを大切にしろ」と教えられてきた選手は、自分の乗っていたレース艇を放棄することにショックを受け、中には泣き出してしまう選手もいましたが、緊急時にはヨットを捨ててでも自分の命を守ることの大切さを身をもって経験することができたことは、レースで勝利すること以上に大きな収穫になったはずです。

閉会式では、村松哲太郎プロテスト委員長が、今大会、出艇申告漏れが多発したことに触れ、出艇申告/帰着申告は、参加選手の存否を確認するために不可欠な手続きであることを説き、選手たちの安全意識の低さを厳しく指摘しました。

期せずして、セーリングの安全面がクローズアップされる大会となりましたが、この大会に参加した選手たちは、安全意識を高く保つことの大切さを身をもって経験することができたことで、彼らのシーマンシップは大きく向上したはずです。


上位成績

OP級(参加33艇)

1位 中村瑠夏 横浜ジュニアヨットクラブ
2位 蜂須賀晋之介 なごやジュニアヨットクラブ
3位 倉橋直暉 海陽海洋クラブ

OP級優勝:中村瑠夏(横浜ジュニアヨットクラブ)

ミニホッパー級(参加8艇)

1位 玉山郁人 丸玉セーリングクラブ
2位 小沢聖人 山中湖中学校ヨット部
3位 久保田景悠 YMFSジュニア葉山

ミニホッパー級優勝:玉山郁人(丸玉セーリングクラブ)

シーホッパー級SR(参加25艇)

1位 中村礁太 神奈川ユースヨットクラブ
2位 神谷花実 浜名湖ユース
3位 野々村海人 清水ヨットスポーツ少年団

シーホッパー級SR優勝:中村礁太(神奈川ユースヨットクラブ)

FJ級(参加11艇)

1位 亀井淳司/上野山貴大 星林高校ヨット部
2位 岡田直城/中畑光貴 星林高校ヨット部
3位 大野潤/山田大剛 三ヶ日高校ヨット部

FJ級優勝:亀井淳司/上野山貴大(星林高校ヨット部)



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