活動レポート

夏休みを前に水難事故防止のための「水辺の安全学習」を実施

レポート:箱守康之(校長)

2011.7.3,17

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ジュニアヨットスクール葉山では、7月3日(日)・17日(日)の2日間にわたり、スクール生やその保護者を対象とした恒例の「水辺の安全学習」を実施しました。

この講習会は、水辺に親しみながら安全確保の知識や技術を身につける「ウォーターワイズ教育」の一環として行われ、昨年同様、内閣府特定非営利活動法人 日本ライフセービング協会の皆さんの指導のもと、水難事故防止を目的とした座学(7/3)と実技(7/17)の講習を通じて「生命の尊さ」を学び、「自分の命を自分で守る力」を養いました。

初日の座学では、心肺停止状態にある水難者への応急処置として、昨年も実施した心肺蘇生法(人工呼吸と心臓マッサージ)のおさらいに加え、AED(自動対外式除細動器)を用いてその役割や一時救命処置の手順について学びました。また新たな取り組みとして、海辺の事故の原因の一つであるリップカレント(離岸流)の特性をはじめ、万一その流れに巻き込まれてしまった際の離脱方法、さらに水中でのHELP姿勢(水中で体温の低下を抑える姿勢)や、セーリング中に艤装品等で出血してしまった場合の止血方法などについても実践的な知識を身につけました。

また、17日に行われた実技講習では、二人一組でバディ(水辺活動を行う際の仲間・相棒)を組み、座学で学んだHELP姿勢の動作や、ライフジャケットを着用したままでの方向転換と移動、ペットボトルを使った浮身の取り方などの各種トレーニングを実施。休憩を挟んだ午後からは、転覆したヨットのコクピットに閉じ込められた状態からの脱出と、ヨットを自力で起こし、再乗船して自らの安全を確保するまでのシミュレーションを繰り返し行いました。

2日間にわたる講習を終えた日本ライフセービング協会指導委員会委員長の上野真宏さんは、「海にはプールでは出会うことのできない素晴らしい魅力があります。海難事故を恐れて子どもたちをそこから遠ざけるのではなく、積極的に海と接する機会を持ちながら、正しい知識や経験を身につけることがとても重要だと考えています。今回受講したヨットスクールの生徒たちは、普段から海に接しているだけに、そうした感性が非常に高いように感じました」と話してくださいました。


水辺の安全学習での指導ポイント

ポイント① 一時救命の措置について

呼吸停止後の時間経過とそれぞれ生存率は、1分後で97%、2分後で90%、3分後で75%、4分後で50%、5分後で25%、10分を経過すると0%というデータがあります。こうしたことから、一般的には呼吸停止後の3〜4分間が傷病者の生死を分けるポイントとされています。一方で救急車の要請から救急車が現場に到着するまでには平均7分54秒(総務省消防庁「平成22年版 消防白書」)を要し、これに通報や処置に費やす前後の時間を加えると平均10分以上にもなります。こうしたことからも、救急車が到着するまでの間に、正しく一時救命の処置を行うことが重要であることがわかります。

今回は、スクール生、保護者、コーチ陣に分かれ、グループごとに傷病者の発見(観察) → 意識の確認 → 協力者を求める → 119番、AEDの依頼 → 気道の確保 → 心肺蘇生、AEDの使用という流れで、一時救命処置の体験シミュレーションを行いました。


ポイント② 落水時のHELP姿勢について

米国で行われた実験DVD(COLD WATER BOOT CAMP)を教材に、水の中では同じ温度の空気よりも体温が短時間で奪われやすいことや、万一水中に投げ出されてしまった際の対応について学びました。

落水の際には、できる限り体の多くの部分を水面に出すことが大切です。それができない場合にはHELP姿勢をとって救助を待ちます。また落水者が複数いるケースでは全員が集まって頭を水面から出し、互いの腰のあたりに腕を回し、体を接触させたり足を絡めあったりすることが大切です。こうすることで、何もしないで浮かんでいるよりも、生存時間を最大で3倍も延長できると言われています。

体温変化と症状の目安
35度強烈なふるえ、疲労、激しい寒さ。まだ自分で危機を脱出できる。手足のしびれ、不器用になる
34度協調運動の感覚を失う。ろれつが回らなくなる。判断が鈍る、記憶力が衰えるなど、問題を直視せずに助けを断ることもある
32度意識が遠のく、方向感覚の損失、記憶の損失、めまい、ふるえが軽くなる/止まる、筋肉が硬直する
30度脈拍、呼吸が遅くなる。血圧が異常になる。意識がより一層遠のく
28度随意運動や反射神経を損なう。意識をなくし死んでいるように見える。呼吸をほとんどしなくなる。肌が青くなる。心臓停止
26度心血管系死亡

出典:New Zealand Water Safety Council Inc.「Water Wise Safety Handbook」


ポイント③ リップカレント(離岸流)からの離脱について

海水浴の代表的な事故原因の一つであるリップカレント(離岸流)とは、岸に打ち寄せられた海水が沖に戻っていく際に生じる帯状の強い流れを指します。この流れはたいへん強いため、焦って流れに逆らって岸に戻ろうとすると体力を消耗して危険です。もしリップカレントに捕まってしまったら、まずは岸と並行に泳ぎ、沖に向かう強い流れから離脱することが重要です。テトラポットや岩などの障害物の周辺は、流れが複雑でリップカレントが発生しやすいと言われています。またごみや泡が集まっているところには近づかないことが大切です。


ポイント④ 転覆(沈)したヨットのコクピットからの脱出について

セーリング事故の一つに、転覆(沈)したヨットのコクピット内に船員が閉じ込められ、ロープ類が体に絡まるなどしてパニック状態に陥った結果、大量の海水を飲んで溺れてしまうといった事例があります。

しかし、ヨットには浮力体が装備されているためすぐに沈むことはありませんし、ジュニアの練習艇として使用するOP艇であれば、完沈した状態でも1分以上の酸素が残っています(その他のヨットは約30秒が目安)。ですからパニックを起こさないよう日頃から正しいトレーニングを積んでいれば、大きな事故につながることはほとんどありません。

コクピットから潜って脱出する際には、ライフジャケットの浮力の抵抗があるため、勢いをつけて前転するように潜る、または体を横方向に回転させながら潜るなどの技術が必要となります(写真上)。とは言え、それほど難しいことではないので、定期的に体験をしておけばいざという時に慌てることなく対応できるでしょう。

転覆したヨットから脱出したら、ロープ類等に気をつけながらヨットの側面に回りこみ、艇体のヘリなどに手や足をかけてひっくり返します。その状態のまま復元したヨットに再乗船できない場合には、一旦海に入って後部に回りこんでから乗船する(写真下)ようにします。これについても繰り返し体験しておくことが重要です。なお、水温が低い冬の海などを想定し、転覆から復元、そして再乗船までを3分以内に完了できるようトレーニングしておくことが必要です。


二人一組のバディシステム。自分の命を自分で守ると同時にバディの存在についても責任を持つ

救助をする、救助をされる、その両方の可能性があるため、それぞれの立場の体験が必要


落水後、ただちにHELP姿勢をとるための飛び込みトレーニング

落水者が複数いる場合には集団をつくり、それぞれ声をかけて励まし合いながら救助を待つ


(ジュニアヨットスクール葉山 校長 箱守康之)


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