調査研究

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2014年12月13日

公開シンポジウム2014「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」を開催しました

公開シンポジウム「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」を開催しました

ヤマハ発動機スポーツ振興財団は、12月13日(土)、大手町ファーストスクエアカンファレンス(東京都)にて、公開シンポジウム2014「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」(後援:文部科学省、公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会、公益財団法人 日本体育協会、公益財団法人 日本オリンピック委員会、公益社団法人 東京都障害者スポーツ協会、公益財団法人 笹川スポーツ財団)を開催しました。

12月6日(土)神戸女学院大学におけるシンポジウム(第35回医療体育研究会、第18回日本アダプテッド体育・スポーツ学会、第16回合同大会との共催)に引き続き、当財団が主催した東京会場には、スポーツ関係団体・組織、大学関係者や報道関係者など各方面より約100名の方々が参加されました。

シンポジウムは、当財団の浅見俊雄理事による開会の挨拶に始まり、当財団調査研究委員会の海老原修委員長が「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」の調査報告を行いました。これに続くパネルディスカッションでは、同委員会高橋義雄委員をコーディネーターにパネリスト4名が登壇。射撃選手として3度のパラリンピックに出場している田口亜希氏が選手の立場から競技力向上について、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の中森邦男氏が各競技団体の現状と課題について報告されました。さらに選手や協会が抱える諸問題の解決に向けた政府や自治体のスポーツ政策を文部科学省の川井寿裕氏、選手の生活を支える企業のあり方を日本オリンピック委員会の八田茂氏が発表されました。

その後は高橋コーディネーターを中心に、前半ではパネリストの間で、後半ではパネリストと会場との間で、障害者スポーツ環境の向上および世界で活躍するアスリートの育成・支援など、幅広い議論と活発な意見交換が行われました。





調査結果報告

海老原 修 氏(横浜国立大学教育人間科学部 教授/ヤマハ発動機スポーツ振興財団 調査研究委員会 委員長)

平成24年度に発足した調査研究委員会はまず「大学における障害者スポーツの現状に関する調査」を実施した。153大学、167学部・学科・コースにアンケートを行い、回答率は約30%となったが、この中でわかったことは、スポーツ施設のバリアフリー化などの対応はほとんど行われておらず、6割以上が今後も対応しないということで、現状も将来も障害者スポーツ選手がトレーニングできる環境は限られていることがわかった。また、昨年・平成25年度は「我が国のパラリンピアンを取り巻くスポーツ環境調査」をパラリンピアン、指導者、団体を対象に実施した。先天的障害者と、後天的障害者では、前者が両親、後者は理学療法士等が競技に参加するきっかけとなっているように、彼らを取り巻くスポーツ環境は多様で、ひと括りに議論すべきでないことがわかった。さらに、競技者も指導者も経済的な支援を強く臨んでいる実情があるが、東京パラリンピックへ向けた社会基盤やスポーツ環境整備・支援が進むことで、かえって障害者自身とふれあう機会が薄れ「区別のない社会」が遠のく危険性にも言及しておきたい。いずれにしても、障害者はもちろん障害者スポーツ選手がセルフヘルプの思考へ発想を切り替えるチャンスが東京オリ・パラの開催にあるのではないかと思う。


パネルディスカッション

田口 亜希 氏(射撃選手/パラリンピックアテネ大会、北京大会、ロンドン大会出場)

射撃は、その特異な競技性から、どこでも練習ができるというわけではなく、なかでも車いすを使う選手が利用できる射撃場はかなり制限されている。しかし今後は、射撃場だけではなくスポーツ施設全般について、障害者および高齢化社会に向けたバリアフリー化を進めていくことが必要だろう。また、私のように、射撃場の使用料を含め、海外遠征や合宿への参加は基本的に自己負担の選手が多く、その負担によって競技の継続を諦めてしまう選手も少なくない。2020年の東京に向けては、選手の強化、選手を増やすという視点でも、負担額を減らしていくことが重要であると考えている。そして、私が所属する障害者スポーツ射撃連盟は、4名のスタッフが、それぞれ他の仕事をしながらボランティアで運営している状況であり、長期的な計画をベースとした強化は難しいのが現状。今後は選手強化のためにも、中央競技団体から各競技団体への人的・組織構築支援も必要と考える。


中森 邦男 氏(公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会 強化部 部長)

スポーツ基本法の成立や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催、障害者スポーツの政府所管が厚生労働省から文部科学省へ移管されるなど、近年はスポーツ推進・振興が大きく進んでいる。これに合わせて当協会も「日本障がい者スポーツの将来像」を2013年3月に発表し、長期的、計画的なアクションプランによりスポーツ振興を進めている。現在のパラリンピックは、上位国へのメダル集中が進んでおり、2012年のロンドンでは、上位5ヵ国で金メダルの45%を占めた。これは主催国を中心に国をあげての強化によるものである。日本パラリンピック委員会は、2020年、22個の金メダル獲得を目的としているが、これを実現するため政府と中央競技団体とが連携し、傘下競技団体の基盤強化、選手強化策を推進し、さらにオリンピック競技団体の理解と支援を得て、選手の強化事業や活動支援などの充実を図りたい。


川井 寿裕 氏(文部科学省 スポーツ・青少年局 競技スポーツ課 課長補佐)

文部科学省では、近年のスポーツ基本法の制定やスポーツ基本計画の策定、厚生労働省からの障害者スポーツの移管などを踏まえ、今年度からパラリンピック競技の強化に向け、様々な取組を展開するとともに、来年度は今年度の約2.5倍の障害者スポーツ関係予算を要求している。特に今年度は、オリンピック競技でも展開しているマルチサポート事業をトライアル実施したり、オリンピックとパラリンピックに関する有識者が相互理解の下一つになって、我が国のトップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方に関する議論をスタートさせている。我が国のパラリンピック競技の強化にあたっては、オリンピックと同様、国際競技力向上の要素と構造が必要と考えており、「ハイパフォーマンススポーツ」としてのカルチャーを構築できるかどうかが鍵となると考えている。この他の課題としては、オリンピックとパラリンピック競技団体間の連携促進、パラリンピック競技団体の基盤強化などがあげられる。


八田 茂 氏(公益財団法人 日本オリンピック委員会 キャリアアカデミーディレクター)

競技スポーツ選手の現役続行のための就職支援活動「アスナビ」を実施している。2010年10月から、各経済団体や行政と19回の説明会を実施してきたが、昨年・平成25年からパラリンピックを目指す選手の就職支援にも着手し、これまでオリ・パラの合計で35社、48名の就職実績がある。雇用形態は、正社員または契約社員となっており、企業の採用目的としては、雇用選手の応援や活躍を通じた社員の一体感の醸成や社会貢献活動によるイメージアップ、またパラリンピック選手の場合は、法定障害者雇用率のアップを踏まえた採用も見られる。今後は2020年の盛り上がりに呼応して採用ニーズは増大する見込みであるが、パラ選手は、既卒・フルタイム勤務の社会人アスリートを希望する企業の割合が高い。彼らがアスナビを活用し、転職することでさらなるスポーツ環境整備を図るには、現職で勤務を続けながら円滑な人間関係を構築するなどの企業人としての資質・マネージメント能力も求められている。


コーディネーター 高橋 義雄 氏(筑波大学体育系 准教授/ヤマハ発動機スポーツ振興財団 調査研究委員会 委員)

パラリンピックの選手たちが2020年に日本で活躍することによって、将来のレガシーとして多くの人たちの障害者スポーツに対する意識の変化に繋がっていくことが望まれる。それが、日本全体、そして世界で、障害を持つアスリートの活躍の場が増えていき、障害者の社会への積極的な参加に繋がっていくことになればと思う。これこそがスポーツの力であるが、その力をいかに発揮させる仕組みを作るかということについて、我々だけでなく本日参加いただいた皆さまを含めて議論を重ね、実践していかなければならない。


司会 杉本 典彦(ヤマハ発動機スポーツ振興財団 事務局長)

パラリンピック選手強化の現場においては、さまざまな課題を抱えながら、取り組んでいる様子のご紹介があり、認識を新たにした部分もあった。そうした現状を知るにつけ、まずはパラリンピック選手強化に向けた現状や課題などを、より広く社会の皆さまに知っていただくことが大切だと改めて感じた。その上でご参加いただいた組織・団体や報道機関の皆さまも含め、こうした課題を共有し、ともに連携して取り組むことが、社会的な認知をより高め、パラリンピック選手が精一杯チャレンジできる環境づくりを進めていくことにつながると思う。また、そのような連携の輪がさらに拡がることで、2020年東京大会に向けたパラリンピックムーブメントや、将来に向けたパラリンピックレガシーが築かれていき、ひいては全国の障害を持つ方々が、それぞれの地域でスポーツに容易にアクセスでき、スポーツを楽しむ機会が拡がることを、私たちは心から願っている。


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