調査研究

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2014年12月6日

公開シンポジウム「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」を開催しました

公開シンポジウム「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」を開催しました

ヤマハ発動機スポーツ振興財団は、12月6日(土)、神戸女学院大学(兵庫県)講堂にて公開シンポジウム「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題 アダプテッド・スポーツのこれから〜多様性とそのつながり〜」(後援:公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会、公益財団法人兵庫県障害者スポーツ協会、兵庫県、神戸市、神戸市教育委員会、神戸市社会福祉協議会、西宮市、西宮市教育委員会、西宮市社会福祉協議会)を開催しました。

同シンポジウムは、12月6日(土)〜7日(日)に開かれた第35回医療体育研究会、第18回日本アダプテッド体育・スポーツ学会、その第16回合同大会に合わせて開かれたもので、当財団の浅見俊雄理事が開会の挨拶を行ったほか、調査研究委員会の海老原修委員長が「日本のパラリンピック選手強化の現状と課題」の調査報告を、藤田紀昭委員がシンポジウムの司会・コーディネーターを、さらに齋藤まゆみ委員、YMFSスポーツチャレンジ助成第1期生の山本篤選手(北京パラリンピック銅メダリスト/走り幅跳び)らがシンポジストとして参加しました。

当日は、競技団体や研究機関、また強化の現場といったそれぞれの立場から各種発表が行われ、調査等によって浮かび上がった課題を共有するとともに、パラリンピック選手強化に向けて大学や医療機関がどのような貢献ができるのか、パネルディスカッション等を通じて議論が行われました。





調査結果報告

海老原 修 氏(横浜国立大学教育人間科学部 教授/ヤマハ発動機スポーツ振興財団 調査研究委員会 委員長)

ヤマハ発動機スポーツ振興財団の調査研究委員会では、平成24年度から障がい者競技スポーツに関する調査を進めてきた。初年度は「大学における障害者スポーツの現状に関する調査」を行ったが、ほとんどの大学で今後も障がい者スポーツに対して施設開放の予定がないことがわかっている。また、優秀な記録を持つ障がい者アスリートを推薦入学の対象にする予定がないこともわかった。続く平成25年度は「我が国のパラリンピアンを取り巻くスポーツ環境調査」と題して、アスリート、指導者、競技団体を対象とする調査を行った。ここでも多数の課題が浮かび上がり、たとえば障がい者スポーツ競技団体の約半数は、いまだ法人化が進んでいないことがわかっている。さらに一般障がい者のスポーツへの参画に関する実態やニーズは、実際にはまったく把握されていない。この実態について私たちは非常に危惧している。


パネルディスカッション

山本 篤 氏(スズキ浜松AC/大阪体育大学大学院生/YMFSスポーツチャレンジ体験助成第1期生)

パラ陸上の選手強化は国内合宿中心に行われている。NTC等で行うこの合宿には、トップ選手に加えて育成枠の若手選手なども参加しているので、全体の底上げにはつながっていると思う。しかし、トップ選手がより高いレベルをめざすためには海外合宿や遠征を行う必要がある。強化費は個人についているわけではないので、こうした費用は選手個人が負担しているのが実情。海外の試合でしか得られないことはたくさんあり、トップ選手が積極的に海外遠征を実現できる環境づくりは飛躍に向けて大きな課題と言える。

山本篤選手の詳しいプロフィールを見る


岩渕 典仁 氏(国立障害者リハビリテーションセンター/元ウィルチェアーラグビー日本代表監督)

日本代表チームの強化には、大きく分けて「組織・環境」「アスリート強化・支援」「指導者育成」「広報・経済」といった課題がある。組織や環境については団体の専用事務局の設置や強化拠点の確保など、アスリートや指導者については医・科学的なトレーニングと雇用支援など、またウィルチェアーラグビーを広く知っていただき、強化のための資金確保なども重要な課題となっている。直近では代表選手に引退を迎える人々も出てきており、セカンドキャリアとして指導者に導くなど一つひとつ課題をクリアしていきたい。


奥田 邦晴 氏(大阪府立大学大学院 教授/日本ボッチャ協会 理事長)

2020年のメダル獲得を見据えたとき、ボッチャの競技人口を広げると同時に、頂点をさらに高めることは必須の課題。そのためには全国的な普及活動と選手の発掘・育成がカギとなるため、特別支援学校の対抗戦や全国障がい者スポーツ大会の正式競技化に向けて活動している。強化の現場では「ADL能力が向上すれば競技力も上がる」という仮説のもと、フィットネストレーニングを中心にした強化を進めている。同時に科学的根拠を蓄積するため、バイオメカニクス的なサポートを含めて選手強化に努めている。


櫻井 誠一 氏(日本身体障がい者水泳連盟 常務理事)

オリンピック競技と比較してガバナンスなどの基盤が脆弱な障がい者競技団体は、さまざまな課題に直面しており、組織的な選手強化も困難な状況。そうした中、当連盟では競泳チームのスローガンとして「100人の自分に勝つ」を掲げ、選手に奮起を促している。これはアテネ大会当時、五輪代表が9万4000人の水連登録者のうち20人しか選ばれなかったのに対し、パラ水泳では登録者900人から24人が選ばれたことに基づいた数字。自分と同じ障がいがあり、同じ記録の100人がいると考えて精進しなければならない、そういう戒めから生まれた言葉。


齊藤 まゆみ 氏(筑波大学体育系 准教授/ヤマハ発動機スポーツ振興財団 調査研究委員会 委員)

体育系という大学組織に属する我々には、教育、研究、競技、社会貢献にかかわる9つの使命がある。中でも競技に関して、大学は「研究、実践、指導者養成の三位一体となった高度競技力強化拠点」としての機能が必要であると考えている。パラリンピックに関しては、用具の開発やトレーニング方法について一部で試行的な取り組みが始まったものの、知の蓄積や情報の共有が不十分であり、いまだ現場のニーズを把握する段階に留まっている。一方、パラリンピックがマルチサポートの対象となったことで、今後、研究や開発は急速に進むものと考えている。


司会・コーディネーター 藤田 紀昭 氏(同志社大学大学院教授)

スポーツ基本法が制定され、2020年オリンピック・パラリンピック招致が決まるなど、障がい者スポーツの世界はいま大きな渦の中にある。そこで私たちが見失ってはいけないのは、現場の声を把握した上でニーズに合った支援を行っていくこと。今回は選手、コーチ、競技団体、研究の現場からの視点で強化施策について考えた。まもなく提出されるパラリンピックの強化拠点に関する有識者会議の最終報告書にも、本日議論されたような内容が貫かれていることに期待したい。いま日本は労働災害や交通事故が減少傾向にある。そうした社会の中で、障がい者スポーツの選手発掘システムなどジャパンモデルと言えるものが確立されれば、それこそがパラリンピック・レガシーになっていくのではないかと思う。


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