スポーツチャレンジ賞

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TOMOHIRO NOGUCHI × TOMOKO HAGIWARA

普通の障がい者アスリートができないところへ行って欲しい

萩原その木村選手ですが、ロンドン、リオと2大会連続で活躍して、あれだけの結果を出した後、バーンアウトのようなものは経験しなかったのですか?リオの後、木村選手のインタビューなどを拝見して、気持ちの部分でこれからどうなるのかな、と心配していました。

野口なってます、なってます!普通にそうなってます。これは彼自身にも言いましたけど、バーンアウトなんて状態は、北島康介だってなるんですから。リオが終わってからずっと、木村君は「やる気が出ない、やる気が出ない」って言ってましたよ。

萩原そういう内面的なことも、木村選手は素直に野口先生に直接話せる関係なのですね。

野口ええ、普通に話していますよ。こちらからも「じゃあこうすればいいんじゃないの」っていう提案をします。今彼は一人で練習しているんですが、たまに連絡は入りますし、困った時にはいつでも相談に乗るスタンスです。

萩原東京でのパラリンピックまではあと三年です。東京に向けて木村選手はどのようなプランで進んでいけばいいんでしょうか?

野口どういう道に進むにしても、彼には普通の障がい者アスリートができないところへ行って欲しいですね。3度目のパラリンピックに挑むというのは、結構リスクの高いチャレンジになります。

萩原リスクが高いというのは、どういう意味においてでしょうか?

野口金メダルを狙っていて、銀で終わった、銅しか取れなかったとなると、精神的に本当にきますから。リオでの萩野公介君もそうでしたが、狙っている、狙っていると公言して、そこで金メダルを取れないと、自分に対しても嘘をついてしまった、というような猜疑心が生まれたり、周囲の評価が怖くなってきたりしますよね。

萩原私の現役時代の経験でいうと、やはり一番は周りの評価かもしれないですね。自分の本当の気持ちを言えなくなってしまって。そういう時期がありました。具体的に言うと、シドニーオリンピックが終わったあとです。

野口それって、じゃあ時が経てば自然になくなっていくのかというと、そうでもない。意外と心の何処かにしつこくこびりついていたりしますよね。木村君も、リオで金メダルが取れなかったということが、心の何処かに残り続けている。それが彼は怖かったみたいです。でも、僕たち健常者のスポーツの世界では、そういうこと、たまにはボロボロになったりすることがまあ普通なわけです。僕なんか水泳人生の八割くらいはズタボロですけどね、笑。

萩原私もそうですよ、一緒です、笑。

野口木村君の場合、自分が言った言葉は全て自分に降りかかってくる、ということを、今回学習したばかりです。今度はそこをコントロールする術を身につけなきゃいけない。ただやはり、見えないというハンディキャップはありますよね。例えば彼について書かれた記事や意見がインターネット上に出る。それを我々は目で読むわけですが、彼の場合は耳で聞くわけですよ。すると、その記事の持つ意味合いや捉え方が、我々とは全く違っていたりするんです。

萩原なるほど、メンタル面での難しさもあるわけですね。

野口でももし東京に出場すれば、当然金メダルをとると本人は公言するでしょうし、周囲も期待する。しかしそれとは別の次元で、僕は彼にこれまで日本の障がい者アスリートが歩んだことのないような足跡、しかも全盲の人がですよ、誰も歩んだことのない道程を、残して欲しいなあと願っています。もちろん金メダルで終えれば最高ですけれど、彼のチャレンジが銀で終わろうと、銅で終わろうと、社会が「木村君の残して来たもの」をしっかりと評価してくれる、そういうストーリーをしっかりと描いて欲しいですね。

<次のページへ続く>



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