スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

INTERVIEW
SHOTA NAKAJIMA × TOMOKO HAGIWARA

【対談】中島正太×萩原智子

アナリストとしてのラグビー人生

プールに行って、水着一つになって水に入る、そりゃあ気持ちいいもんですよ。新しいスポーツ施設、きっと皆さん喜ばれていたんでしょうね。

エディの計算は揺るがなかった。でもピッチ上では違っていた。

萩原少し私の世界の話になってしまいますが、競泳は個人競技ですが、選手同士は情報の共有を一番大事にしていて、それがチーム力の向上にもつながっているんです。チームが一つになるために一番大事な手段、そこはラグビーも水泳も変わらないんだなあ、と思います。

中島僕も四年前にオーストラリアの水泳チームに関する論文を読んだことがありまして、そこには今萩原さんがおっしゃったようなことがいろいろと書かれていました。個人スポーツでありながらチームのことを考える、その思考が成功へ繋がるという発想がすごいな、と驚きながら読んだ記憶があります。やっぱりワンチームって大事なんですよね。

萩原勝てるチームの雰囲気ってありますよね。スタッフ、選手、レギュラー、サブメンバー、どこからもあまり不平不満が出ないチームはすごく強い、それが私の印象なのですが、実際はどうなのでしょうか?

中島僕も基本的にはそうだと思います。でもワールドカップ前の日本代表では、エディはわざとチームにストレスを与え、不平不満を出させていました。大会前にあった4つの強化試合、これには全て違うメンバーで挑みました。当然コンビネーションはちぐはぐになり、結果も伴わない。結果が伴わないと、いろいろなところから不満が出ます。でもエディはあえてそうさせていました。今の段階で選手に自信をつけさせる必要はない。まだまだ選手は成長しなきゃいけない、そのためには選手に不安を与えなきゃいけない、ストレスを与えなきゃいけない、試合というのはストレスのあるものだから、と。

萩原なるほど、とても興味深いお話ですね。

中島でもワールドカップ用のスーツを着て、イングランドへ発った日からは、一切新しいことはしませんでした。新しい情報も入れない、新しい練習もなしです。これからは一切選手にストレスを与えるな、と。

萩原面白いですねえ!その後、ストレスをなくしたときからまたチームがガラっと変わったんですか?

中島そうなんです。安定した環境の中に置かれると、選手たちはすごく落ち着いてくる。練習の質、コミュニケーションの質が上がって、リーダー陣がリーダー的な言葉を発するようになりました。例えば練習がうまくいかない時、それまではエディが怒鳴っていました。しかし本来なら、その場面では選手の中のリーダーが、これじゃあインターナショナルなレベルじゃないだろう!と怒鳴って、自分たちで練習の精度や集中力を高めなければならないんです。なぜなら、本当の試合が始まったら、もう誰も助けてはくれないからです。試合の立ち上がりで何かがうまく機能しない時、前半20分くらいまでに自分たちのペースを取り戻せないチームはやはり勝てない。弱いチームはハーフタイムのあとでしか変われない。なぜならコーチに依存しているからです。

萩原そういうトレーニングの積み重ねがワールドカップ本番で生きて、南アフリカ戦の最後のスクラムに至るわけですよね。あの時、中島さんはどういう風に試合をご覧になっていたんですか?

中島僕の横ではエディがむちゃくちゃキレてましたね、笑

萩原わたしもそのエディさんの映像をTVで見ました!笑 

中島まず、エディは基本的に全くブレていなかったんです。彼のターゲットは決勝トーナメントに進むこと、そのためには一番確実な道は、まず南アフリカ相手に引き分けて勝ち点2をゲットすることでした。普通なら勝ちに出たいところですが、エディの計算はそこでも揺るがなかった。でもピッチ上では違っていた。本来ずっと日本の弱点だったはずのスクラムが、あの試合では日本の強みになっていたんです。自分たちがこの四年間、こだわって鍛えてきたものが、最後の最後で自分たちの武器になっていた。だから、あそこでチームはスクラムを選択できたんです。

萩原それは自立したチームだからこそ、あの場でスクラムを選択できたんですよね?

中島たとえエディに反発しても、自分たちが一番と考える選択をできた。つまり、選手達が責任を取れるようになったのだと思います。でも、選手たちがそうなれたのも、やはりエディ・ジョーンズという監督の成果なのかもしれません。

<次のページへ続く>



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