スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

MIYUKI KANO × YOKO ZETTERLUND

プレーできるようになるまでの段階は同じ。

ゼッターランドデフの指導をしていると、通常、バレーボールの世界では音で色々なことを認識してるのがよくわかりますよね。例えばブロックを降りて、振り向いて、私たちはちょっとボールを見失っても、後ろから「上がってるよ」と言われればすぐにわかる。でも、その味方からの声が全くないとなると、音でのコミュニケーションが取れないって大変だなって思いました。

狩野その通りですね。

ゼッターランド今ここで集中してほしいという瞬間がシンクロしない、シンクロさせるのが難しい、という話も聞きました。どうやってチーム全体の集中力をこちらに向かせるか、それも課題ですよね。
あとは、普通のバレーボールの指導をさらに噛み砕かなければいけない。ボールの軌道を可視化することによって、選手たちにより具体的に教えられることができる、そういうお話にもとても興味を惹かれましたね。

狩野実際のところ、デフに限らず、ここにはボールは来ないよ、っていう場所に立ってしまう選手って多いですよね。何べん言えばわかるの?って、笑。

ゼッターランド確かに、プレーできるようになるまでの段階っていうのは、みんな同じなのかもしれませんね。デフの指導をされていて、自分にはできたことがなかなかできない選手に対する焦燥感とか、苛立ちとか、そういうものはありますか?

狩野元々、私にはそれほどの執着心がないので、どうしても自分の意見を通す、というタイプではないんです。そういう性格が現役の時によかったとは思わないのですが、ただデフの指導をしていると、どうしてもこれは無理だよね、諦めるしかないよね、という事例が実際に出てくるんですよね。

ゼッターランド例えば?

狩野例えば、選手同士でぶつかることは避けられない、っていうのがあります。ブロックに飛んで、仮に相手にフェイントをかけられたとします。当然後ろにいる選手はそのボールに突っ込んでいきます。ブロックに飛んだ選手もそのボールに反応する。すると、そこは声かけをできないのでどうしてもぶつかります。でも、ぶつかるのは危ないからお互いにボールに行かないようにしよう、という選択肢はないですよね。その辺は怪我しなければいいし、意外と彼女たちはぶつかっても怪我しないんですよね、慣れているのか最後の最後で危機回避能力がある、というか。そういうときは、流すんです。

ゼッターランド勝負へのこだわりを諦めるんではなく、より良い選択をする、っていうことですよね。健常者のバレーでも、何かを捨てる、ってことはあるんです。例えば、どんなフォーメーションでも絶対に穴っていうのがある。その穴に一本打たれて、相手に決められる。その一本を決められたからといって、その穴を必死で埋めようとするのはありえない。自分たちに与えられた条件の中から最大限何を引き出せるか、要するにそこなんです。

狩野デフ(初心者)の指導って、ある意味で小学生に教えるプロセスと似ているのかなと思います。バレーボールを教えるといっても、1年生に教えることと6年生に教えることは異なりますよね。最初は1年生がどのくらいできるかもわからないから、選手の様子を見て、とりあえず今までやっていたことをやって見せてくれるかな?、って感じで観察します。ですから協会の人も、最初は私のことを、なんだか動かない指導者だな、って思っていたみたいですよ。でも、相手の実力がわからないのに、こうしましょう、ああしましょう、とは言えないですよね。因数分解がまだできない子に、なんで因数分解できないの、と怒っても仕方ないですし。

ゼッターランド私自身も、指導の時はまず観察します。パスが飛ばない、サーブのレセプションがうまく行かない、スパイクが決まらない、だいたいみんな悩みは一緒なんですが、なぜうまく行かないのかは、練習方法を見ていればわかります。あとは、やはり基本の技術を教えますね。基本がなければ応用もないですから。

狩野初めてデフの指導に行った時は、その2、3日間で色々なことがありすぎて・・・要は、監督だった今井さんが合宿中急に亡くなられて・・・その時はまだ自分はただのピンチヒッター、監督が病気で来られないからたまたま自分が指導しているだけ、という状況でした。

ゼッターランド大変な経験でしたね。

狩野そう言う状況だと、人のチームを大きく動かす、っていうことはできないですよね。レシーブ一つでも、止まって取らせたいのか走りながら取らせたいのか、指導者によって細かい部分がすごく違うし、真逆のことを言ってしまうと選手を混乱させてしまいます。

ゼッターランド確かに前の監督さんがいらっしゃって、しかも優勝の経験があったりすると、なかなかその成功体験から選手は抜け出せなかったりしますよね。

狩野一番怖いのは、はじめまして、こんにちは、はい変えます、ってやった時の、選手からの反発です。すごく変えたい時でも、やはり徐々に変えていかなければいけないのかな、って思うんです。

ゼッターランド私も選手時代、高校時代にそう言う経験がありますよ。誰も今までやってきたことを頭ごなしに否定されていい気はしない。その辺は気をつけて、変えることへの提案の仕方も考えなきゃいけないし、もちろん結果もついてこなきゃいけない。その点でも狩野さんのデフバレーにおける変化の起こし方は良かったと思います。

狩野たまたまうまくいっただけかもしれませんけどね。

<次のページへ続く>



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