スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

TAISEI IMAMURA × KOJI MATSUSHITA

土壌にあった独自のプロリーグを

松下できない、というよりは、やらない、やらなかった、という方が正しい言い方かもしれません。やっぱりやる気になって、やりたい、という人が出てこないことには、実現しないですよね。ドイツには、人生=卓球みたいな人物がいますよね。

今村最近引退してしまったけれど、グレンツァオのオーナーなんていい例です。グレンツァオというのはフランクフルトとケルンのちょうど中間あたり、谷間にある小さな町です。ずっと昔、その町である卓球好きの少年が17、8歳の頃、古い馬小屋に板を貼って、卓球ができるように改造した。そしてその次に、練習が終わった後にビールが飲める場所があったらいいな、と卓球場の横にレストランを作った。で、飲んだら家に帰れないからと、レストランの横に小さなホテルを作った。それが今や、グレンツァオはドイツ卓球の名門クラブだからね。色々なビジネスが卓球クラブの周りで成立しているけれど、要するに始まりは、その青年はただ卓球をやりたかっただけ、なんだよね。

松下そういう人って、ドイツには本当に多いですね。一人が先陣を切ると、その人を中心に大きな流れが生まれる。卓球って、まず最低限のチームをつくるのにはそれほどの予算はかかりません。そこからさらにクラブの規模が大きくなればさらに上を目指せるし、あるいは予算の規模に見合ったカテゴリーにとどまって戦い続ける選択肢もある。日本の場合だと、予算がなくなりました、じゃあもう卓球そのものをやめましょう、ってなるじゃないですか。ドイツでは、チームがなくなる、という話は聞きません。仮にオーナーがもう解散!とか宣言しても、じゃあ俺たちだけで8部リーグあたりでやるか、となりますから。

今村そうだね、1部リーグから下位リーグへ降格していくことはあっても、そのクラブがなくなるってことはない。あと、日本の場合は高体連、中体連、とかそういう団体がそもそもあって、縦横にがんじがらめの組織になりがちかな。例えば、今世間を騒がしている張本智和くんなんか、本来なら中体連に属する選手でしょう。そういうカテゴリーを全て取っ払って全ての選手が参加できる、そんなプロリーグが日本にできたら素晴らしい。あと、ドイツではそれぞれのクラブにサポーターという人たちがいて、試合があるたびに応援に出かけるよね。映画でもバーベキューでもなく、よし今日は卓球観に行こうか、となる人々がいるわけです。卓球場に行けば、そこには一つのコミュニティがあり、そういう環境を日本でも作ることができればいいですね。

松下そうですね、人と人を結びつけるところはとても大事だと考えています。今村さんがおっしゃったように、そこに行くと同じ仲間がいて、応援を楽しみ、会話を楽しみ、といった環境を提示できればいいなあと思っています。Tリーグのスタートまであと1年、時間は限られていますが、やるしかない、結果を出すしかない、という決意でいます。もちろん一人ではできないので、協力してくれる人を増やさなければならないし、増えることによって形が出来上がっていくのではないかと考えています。卓球と同じで、コーチがいて、選手がいて、スタッフがいて、応援する人がいて、そういう環境が整うことでまたさらにいいコーチが現れ、いい選手が現れ、そしてさらなるファンが増えてゆく。そういう方向性を描いています。

今村私もTリーグのスタート、大いに楽しみにしています。色々と障害はあるでしょうが、最終的に日本という土壌にあったプロリーグ作りを目指していってもらいたいです。

松下ありがとうございます。最後になりますが、私は今村さんがこれまでやってきてくれたことが評価されて、今回の受賞のことを心から喜んでいます。もう十分貢献されてきたのでこれ以上今村さんに期待するのは酷だとは思うのですが、でもやっぱり日本の若者が本物の意気込みを持ってドイツやヨーロッパでチャレンジしたい時、彼らのサポート役を引き続きお願いしたいなと思います。加えて、これから卓球界もどんどん各国との交流が盛んになり、互いに連携しながら新しいことが始まっていくと思うんです。そういう時、やはり今村さんには協力していただきたいな、という思いがあります。

今村若い人が色々と育ってきて、私のやってきたことを継いでくれるような人材も育ってきているとは思いますが、もしまだ日本卓球界が私の力を必要としているのであれば、もちろんお手伝いはさせていただきます、もう還暦の歳ではあるけれど、笑。

<了>

写真=近藤 篤 Photograph by Atsushi Kondo

インタビュアー

松下浩二

KOJI MATSUSHITA

(まつしたこうじ、1967年8月28日)日本人初のプロ卓球選手。日本国内にとどまらず、欧州3大リーグ(ドイツ、フランス、スウェーデン)、中国超級リーグで活躍。日本代表としてバルセロナオリンピックから4大会連続で五輪出場を果たす。現役を引退した現在も、卓球をさらにメジャーな競技にするためにさまざまな活動を展開中。愛知県出身。愛知県桜丘高等学校、明治大学卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程取得。現在、株式会社VICTAS取締役会長。一般社団法人Tリーグ代表理事。



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