スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

今村大成
FOCUS
TAISEI IMAMURA
今村大成の足跡

デュッセルドルフの父と呼ばれて

世界中で卓球が盛んになり、そして日本が世界一になる

ドイツに渡って33年、今村は今年で60歳になる。定年まではあと5年、それまでは今のように卓球に関わり続けるだろうが、その後の人生についてはわからない。そのままドイツに住み続けることになりそうだが、それもまたどうなるかはわからないだろう。

一時期低迷していた日本の卓球界が、再び勢いを取り戻しつつあること、そのことは素直に嬉しいし、その復活劇の一端を担えたのだとしたら、それもまた自分にとって素直に誇らしいと思う。

ですが、と今村は最後に付け加える。

「私にとって大事なのは、単に日本が中国に勝てる日が来るとか、そういう狭い世界の話ではありません。卓球が東アジアだけのスポーツになって、その中で日本が一番強くなっても、何の意味もありません。ヨーロッパの卓球が復活し、アフリカでも卓球が盛んになり、世界中の国や地域で卓球が盛んになっていく、そしてその中で日本が世界一になる、そんな時代が来ればいいなあと願っているんです」

今村さんがいなければ、絶対無理だった

ドイツ行きを決めた時、正直僕自身の意思というのはまだそれほどではなくて、監督が勧めてくれたので、行く、って返事をしただけでした。

言葉が全然できなかったので、ドイツでの生活は最初とても不安でしけど、今村さんがいてくれたおかげで、一つ一つ乗り越えることができたと思います。

今村さんは僕が用具契約を結んでいた会社の方でしたけど、用具とは全く関係のないところ、特にチーム探しの部分で助けていただけました。

いや、これって「助かった」なんて言葉じゃ言い足りないですね。普通向こうでチーム探すとなると、マネージャーを雇って、お金払ってやってもらうじゃないですか。僕はまだ中学三年生で、自分でチーム探すなんてどう考えても不可能じゃないですか。でも今村さんは、本当に気持ちだけでそれをやってくれたんです。

だから、助かりましたじゃなくて、ありがとうございました、ですよね。今村さんがいなかったら、絶対無理でした。進み始める最初の道を彼が作ってくれたから、今の僕があると思います。

だから、今村さんの今回の受賞、僕は本当に喜んでます。あの人の、僕たちしか知らないようなことを皆さんにも知ってもらえることが、すごく嬉しいです。今村さん、本当におめでとうございます。

(プロ卓球選手 岸川聖也)

<了>

写真・文

近藤篤

ATSUSHI KONDO

1963年1月31日愛媛県今治市生まれ。上智大学外国語学部スペイン語科卒業。大学卒業後南米に渡りサッカーを中心としたスポーツ写真を撮り始める。現在、Numberなど主にスポーツ誌で活躍。写真だけでなく、独特の視点と軽妙な文体によるエッセイ、コラムにも定評がある。スポーツだけでなく芸術・文化全般に造詣が深い。著書に、フォトブック『ボールピープル』(文藝春秋)、フォトブック『木曜日のボール』、写真集『ボールの周辺』、新書『サッカーという名の神様』(いずれもNHK出版)がある。



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