スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

今村大成
FOCUS
TAISEI IMAMURA
今村大成の足跡

デュッセルドルフの父と呼ばれて

「苦労したという感覚は全くありません」

「迷惑だなんて、一度も思ったことはないですね。むしろ、彼らがドイツ卓球界へと少しずつ浸透してゆく様を見るのは、総じて面白い体験でした。逆にドイツのクラブ側から、日本に面白い選手はいないか?と問い合わせもありましたよ。日本人選手はお金ではなく、強くなりたいっていうのが目的ですから、金銭面のことでクラブと揉めることもありませんし、人間的にもチームメイトとトラブルを起こすタイプはいませんから。クラブ側としてもメリットはあったと思います」

しかしそんな今村も2001年、中学生の日本人選手をドイツに住まわせてトレーニングさせたい、と言う話が飛び込んできた時は、正直戸惑ったのだと言う。
来るのはいいが、中学生だけで住むところはどうするのか、食事はどうするのか、あるいは日々の支払いはどうするのか。

中でも一番気になる案件は、ビザだった。ドイツで就労ビザを取るならば、一定以上の収入がなければならない。しかし中学生の彼らにもちろん収入はない。加えて、どんな種類のビザを申請するにしても、ドイツでは義務教育中の子供は学校へ行かなければならない、という法律がある。結果的に、子供たちは旅行者という形で滞在しつつ、卓球のトレーニングを継続することになった。

ドイツ当局に対してはそれで良い。しかし日本のメディアに対しては、子供たちの教育がどうなっているのか、そこをしっかりと指し示すことが必要なのではないか。そう強く感じた今村は、ワーキングホリデーでドイツに来ている日本人学生に声をかけ、英語、数学、国語をメインに教えてもらう段取りをつけた。彼らの学力を実際にテストしたわけではないし、どこまで勉強するかは彼ら自身の問題だったが、少なくとも勉強する環境を整えておくことは重要なことに思われた。

「そういったことは、自分の仕事の時間中にもやりましたし、時間外にもやりました。仕事かどうかは、あまり区別していませんでしたね。ドイツの会社には9時から5時まできちんと仕事しろ、という感覚があまりなくて、ちょっとデュッセルドルフの子供たちのところへ行って来るから、と仕事を抜けても、それをサボっているとは誰も言わないし、そのぶん仕事が遅れたら翌日に頑張れば良かっただけです。でも、繰り返しになりますが、苦労したという感覚は全くありません。私以外にしてあげられる人間がいないことをしてあげた、ただそれだけですよ」

<次のページへ続く>



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