特別講演
特別講演
日時 3月19日(土) 8:30〜9:15
講演者 杉本 龍勇
公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団
スポーツチャレンジ助成 審査委員
法政大学 経済学部 教授
演題 パフォーマンスが生み出す価値

プロフィール

杉本 龍勇(すぎもと たつお)

1970年11月生まれ。1988年の全国高校総体の陸上100m優勝を皮切りに国内外の大会で好成績を収め、1992年のバルセロナオリンピック陸上4×100mリレーに出場。その後、競技を続けながら法政大学卒業、ドイツ留学。2004年に中京大学大学院博士課程を修了し、浜松大学講師、法政大学経済学部准教授をしながら、Jリーグクラブやラグビーチームのフィジカルアドバイザー・コーチを歴任。2011年4月から法政大学経済学部教授。


  • ※2016年3月7日現在

演題:パフォーマンスが生み出す価値

講演者杉本 龍勇
公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団 スポーツチャレンジ助成 審査委員、法政大学 経済学部 教授

今回のテーマは「パフォーマンスが生み出す価値」です。パフォーマンスという言葉を用いたのは、競技成績にしろ、研究成果にしろ、最終的にはアウトプットしなきゃいけないものだからです。皆さんのアウトプットがどういう価値を見いだしてくのかということを、あらためて考える時間にしてください。

パフォーマンスにどのような価値があるのかと考えると、まず出てくるのは達成感じゃないかと思います。パフォーマンスをアウトプットしたときに、たとえば競技の結果や研究の成果というところです。特に研究者の人は、知的好奇心が充足されます。 自分も一応、スポーツ経済学の研究者。ですから、体験チャレンジャーの審査をしているんですが、あくまでも指導者という立場で、いわゆるパフォーマンス、スポーツの結果という部分を見ています。よくありがちな、たとえば大学の研究者=指導者というスタンスですが、僕はそこはきっちり分けるべきだと考えています。

そういう意味で言うと、研究者の場合は、もちろん外に向けて、何かしら世の中のためになりたいと。あるいは、スポーツのために貢献したいという思いと同時に、自分の知的好奇心、ふと自分の意識しないところで湧いてくる疑問に対して、解明していきたいと。そういった意味でも、知的好奇心の充足と言う部分があるんじゃないかと思います。

また自らの知的好奇心の充足と同時に、社会に対して何かしら貢献したいというフィードバックの気持ちを抱いています。選手もそうですし、研究者もそうですけど、自分がアウトプットをしたパフォーマンスによって、社会に影響を与えていきたいということ。これも、価値としては非常に大きいものです。

たとえば本田圭佑選手の言葉。彼がプレーヤーとして活躍することで、実際にサッカーをやっている人たちだけに勇気を与えていくだけでなく、社会全体に彼のメッセージや、ああいうスタイルというものが、それなりに大きな影響力を持っていくということです。

経済的価値というものもあります。たとえばマイナーといわれる競技に取り組んでいる人たちは、「自分のやっているスポーツをメジャーにしたい」と言います。これはどういうことかというと、経済的な側面から言えば、市場を拡大するということです。ただ、スポーツ市場が相当大きくならない限りは、どのスポーツもメジャーになるチャンスがある一方で、マイナーにとどまり続ける、いわゆる不遇の機会というのも混在します。

「週1回のスポーツ実施率」というような調査の結果、知っていますか? 「メジャーにしたい」と言った人、そういう数字を知っていて、コメントしていますか? 研究をしている人、スポーツ振興基本計画が改定されますけど、そういうものを読んでいますか? いろいろな調査がありますけど、「週1回のスポーツ実施率」はだいたい50パーセント少し超えるぐらい。スポーツ基本計画の中ではそれを65パーセントにしましょうと言っています。さらに週3回アクティブにやる人を30パーセントぐらいにしましょうという目標も掲げられています。

そういう市場規模をある程度、認知しとかないと、皆さん自身が、たとえば選手や研究者として何か情報発信をするときに、自分では意識高く、意義を持って説明したとしても、努力が徒労に終わってしまう可能性があるわけです。そういう意味で言うと、まずはここをきちんと拡大してかないと、我われの存在価値は社会の中で大きくなっていかないということです。

まずは、マクロ的なところで、スポーツ市場を拡大しましょうと。2020年に向けてなぜ躍起になっているかというと、まさにこの部分を一生懸命やろうということです。もっとミクロな部分、個人的な部分に掘り下げていくと、キャリア構築というところになると思います。皆さんも、キャリア構築というのは必ず考えなければいけないことです。

セカンドキャリアという言葉、僕は全く意味がないと思っています。引退した後に、何か準備しましょうでは遅い。僕は岡崎慎司選手の指導もしていますが、すでに引退した後のことも考えて、彼に会社を興させ、収入が途切れないように準備させています。

もう一つ、社会へのフィードバックといった間接的な価値。つまり直接的な価値が、最終的に、間接的な価値というものを生み出していくわけです。ここは、非常に客観的。要するに、周りがきちんと評価しないといけないということです。

ただ、価値と言うと、どうしても直接的価値が優先される傾向が強い。自分の目標を達成したい、皆さんも最初はそれでいいんです。でも、きょうは「パフォーマンスが生み出す価値」というテーマを掲げているので、みんなで考えてほしいと思います。パフォーマンスをどう捉えるか、直接的と間接的のどちらを捉えるかによって、将来性に差が生じます。間接的に生み出される価値を、きちんと重要視するということです。

つまり、自分の感情的要素にとどまらないようにしましょうということです。簡単に言えば、直接的な価値というのは自己満足。スポーツで、もし直接的な価値観だけを優先してしまうと、傍から見たら、気持ち悪い人になってしまいます。

皆さんは、面接の際に、まず自分のパフォーマンス、研究成果、競技成績、それを高めて、世の中に対して影響力を与えたい、世の中を動かしたい、そういうマインドで話ししていますよね。となると、最終的には、自分の満足ではなくて、周囲の人の評価が下されて、初めて「いいね!」となるわけです。外部からの評価を意識して、オタク観を排除してください。

昨夜の交流会でも、ダイバーシティーという言葉が出ました。この集まりは、まさにダイバーシティー。自分の領域とは違う人間と会う。競技者と研究者が一堂に会す。そういう皆さんがいるこの機会は、ある意味、自分の閉鎖的な世界から外に出ましょうというきっかけです。ここで励まし合うことも大切だけど、もっと輪を広げて、自分と違う世界とつながり、評価を受ける。そういうことが大切です。

統計の専門家に言わせると「スポーツをやっている人の統計って、嘘」と。「これほどバイアスの掛かった統計は、データとして役に立ちません」と、ばっさりです。それって、すごいショックではありますけど、もし経済の、あるいは統計の専門家から、すごいデータだね、すごい分析だねと言われる研究をできたら、きっと評価されるフィールドがもっと広がっていくわけです。

誰に評価されるべきか、それは選ばなければいけない。たとえば、僕は大学の教員ですけど、授業を評価されます。いわゆるラクに単位を取りたい学生から「この先生、いい先生」といわれるのと、一生懸命、勉強したい学生から「この先生、いい先生」といわれるのでは全く違う。だから、誰にいいと評価されるのか、誰に駄目と評価されるのか、そこまで考えていかなきゃなりません。

僕は選手のとき、駄目だったときに、たまたま祖母が見に来ていて、親はデリケートに「きょうはここが駄目だったんじゃないの」と話すんですが、祖母のはストレートな一撃、言ってほしくない、自分でも分かってる、最大のミスをズバッっと突くわけです。その言葉に耳を傾けないと、次のレースでもまた負ける。そういった意味で言うと、専門的な人や仲間内だけでなくて、客観性を持った人の評価をもらえるような環境をつくっていくことは大切じゃないかと思います。

それから、競技者の皆さんは、その競技経験を何につなげるかという考え方も大切です。僕も24年前にオリンピック出ましたけど、オリンピックって毎回400人ぐらいが出場しますから、僕の経歴なんて完全に劣化します。24年前の経歴を掲げなきゃならないなんて、恥ずかしいことだとも思います。大切なのは今、どういう生き方しているんだということ。競技成績は、必ず忘れられます。オリンピックに出ると、仲間や親せきが増えて、そして引いていきます。そういう意味で言うと、競技成績を出したら終わりじゃなくて、それを最終的に何につなげていくのかということまで考えて、キャリアをつくっていかなくてはなりません。

次です。社会的責任。きちんとモラルを守ること。スポーツ関係者に求められる責任は、日増しに拡大しています。ビジネス化が進むということは、会社経営と同じ。皆さん、個人経営者と一緒なわけです。そうなったとき、ルールを順守するとか、プラス、ロールモデルとしての役割が非常に強く求められます。

ビジネスとしてのスポーツ。選手も研究者も、皆さんがアウトプットするものは商品です。 マイナースポーツをメジャーにしたいと言いますが、競技をメジャーにするよりは、自分自身がメジャーになることを考えたほうがいいと思うんです。個人として有名になっていく、社会に影響力を与えていく、その個人がロールモデル化したときに、周りをどんどん引き上げていく。みんなで頑張って、メジャーになりましょうというのは、正直、難しいでしょう。

皆さんにとって、パフォーマンスは将来への投資です。優れたパフォーマンスだけでは不十分です。優れたパフォーマンス、プラスアルファが大切です。プラスアルファの具体例。まずは、人としての成長というのを考えてほしいと思います。結果を他の分野とリンクさせていくということ、まさにこのダイバーシティーな感覚っていうのが、絶対的に必要だと思います。デュアルキャリアの構築、デュアルというのは、同時進行させていくということです。そこを考えなければいけない。

僕自身、陸上の出身ですが、現在はサッカーやラグビーの指導もしています。そうした現場から受ける刺激は非常に大きい。陸上に対して、還元できる部分もたくさんあるわけです。先ほども話したように、自分の内在的な、感情的な、主観的なところだけにとどまるのではやっぱりもったいない。常に外への視線、外からの視線というものを意識して、いい研究成果、競技結果を残して、世の中インパクトを与える人材になってくれることことを希望します。ありがとうございました。